HOME > PDNレクチャー > Ch.1 PEG > 6.合併症・トラブル 3.カテーテル管理③事故抜去

Chapter1 PEG
6.合併症・トラブル 3.カテーテル管理
③事故抜去


東近江総合医療センター消化器内科 伊藤明彦

伊藤明彦

記事公開日 2011年10月31日

2014年4月8日改訂

1.概念

事故抜去とは、胃瘻カテーテルが何らかの理由で体外へ逸脱してしまうことをいう。患者自身がカテーテルを抜去してしまう場合を「自己抜去」というが、患者自身の責任を強調するとの意見もあり、第4回HEQ研究会学術用語委員会報告「PEGに関する用語の統一」では、「事故抜去」を総称的な呼び方とすることを提言している1)

事故抜去は、造設後2週間以内の瘻孔完成前に発生する早期事故抜去と、瘻孔完成後に発生する事故抜去に分けられる。瘻孔完成前の早期事故抜去は、胃壁と腹壁の癒着が十分ではなく、胃穿孔と同じ状態と考えられ、その対応には緊急を要する。本稿では、主に瘻孔完成後の事故抜去について解説する。

2.原因

事故抜去の原因はさまざまである。

造設直後は、創部の疼痛により患者自身がカテーテルを引っ張って抜去してしまうことが多い。長期管理中でも、いわゆる「自己抜去」は、胃瘻周囲のスキントラブルにより痛みを伴っている場合に多いようである。

胃瘻カテーテルの種類からみると、バルーン型がバンパー型に比べて多いといわれている。バルーンの固定水が抜けてしまって虚脱する、あるいはバルーンが破裂して自然に抜けてしまうことも少なくない。バンパー型では、長期の使用による内部バンパーの劣化があって、強い力で引っぱられた場合に抜けることがある。また、バンパーに著しい破損や劣化がなくとも牽引力が強ければカテーテルが抜けることがある。この場合、瘻孔損傷の有無に十分注意しなければならない。

チューブ型で事故抜去が起こりやすいのは、体位変換や移動時、入浴時である。医療者や介護者の不注意によって、チューブが体に巻き込まれて引っ張られることが原因になる。「自己抜去」については、チューブ型は引っ張ってもチューブが伸びるため、ボタン型の方が起こりやすいとの意見もある。

ボタン型ではチューブ型より事故抜去の発生が少ないとされるが、認知症の方などでは挿入部の違和感によりボタン型であっても自己抜去される場合もある。また、ボタン型であっても接続チューブがロック式の場合などは注入中にチューブへの牽引がかかれば同様に事故抜去となる。

3.予防

造設後、少なくとも3日間は、十分な鎮痛が必要になる。術前に経鼻胃管で「自己抜去」があった症例などでは、腹帯やミトン(身体拘束の同意が必要)を準備する。万が一、事故抜去が起こっても汎発性腹膜炎を合併しないように、できるだけ胃壁固定を併用しておくことが望まれる。

バルーン型では、固定水の定期的な確認と入れ替え(一般的には週1回)、また、定期的なカテーテル交換(一般的には1~2ヵ月)が事故抜去の予防につながる。バンパー型についても、定期的な交換(一般的には4~6ヵ月)で劣化を防いでおくことが重要である。

4.対処方法

胃瘻の瘻孔は、わずか数時間で縮小し約24時間程度で閉鎖するといわれているため、できるだけ早く瘻孔を確保することが必要である。以前は、胃瘻カテーテルのFr数と同サイズの膀胱留置用カテーテルを用意しておくことがいわれてきたが、最近では抜去されたカテーテルや接続チューブを使うことが推奨されている(図1図2)。ただし、抜去時に瘻孔を損傷している可能性があり、その挿入は愛護的に、そして抵抗がある場合は無理をしないことが重要である。バルーン型の場合は新しい製品を手元に準備しておくと安心である。

図1 瘻孔確保(チューブ型の場合)
図1 瘻孔確保(チューブ型の場合)
内部バンパー(バルーン)上方で切断。ゼリーを塗布し愛護的に瘻孔へ8~10cm挿入。
外部ストッパーを使い抜けないように固定。
図2 瘻孔確保(ボタン型の場合)
図2 瘻孔確保(ボタン型の場合)
接続チューブの接続部を切断。ゼリーを塗布し愛護的に瘻孔へ8~10cm挿入。
抜けないようにテープ固定。

現場で瘻孔が確保できた場合でも栄養剤や薬剤の注入は、新しいカテーテルが正しく胃内に挿入されていることを専門医が確認してから行う。(夜間発生の場合は翌朝注入前に確認する。)また、瘻孔確保が現場で困難であったり、抵抗があった場合などはただちに専門医による瘻孔確保が必要となる。この際には最も確実な内視鏡確認下での瘻孔確保が望ましい。

再挿入については、最も確実な内視鏡観察下で新しいカテーテルへの交換が望まれる。抜去されたカテーテルは損傷している可能性があるためである。場合によっては瘻孔拡張術が必要となることもある。

バンパー型の事故抜去の場合、内部ストッパーが胃内で脱落することがある。この場合、内視鏡的に回収しないと、腸閉塞や消化管の損傷の原因になりかねない。

事故抜去の発見者は、医療関係者より家族や介護者であることが多いため、そのマニュアルを整備しておくことも重要である。そして、緊急連絡先を必ず確認しておくことも忘れてはならない。

文献

  1. 倉敏郎、上野文昭、嶋尾仁ほか:第4回HEQ学術・用語委員会報告-「PEGに関する用語の統一」-.在宅医療と内視鏡治療10:2006
  2. 西山順博:小山茂樹:胃ろうケア~はじめの一歩、秀和システム、東京、p102-104、2010
  3. 小川滋彦:PEGトラブル解決ガイド、照林社、東京、p62-69、2008
  4. 伊藤明彦:曽和融生:PEG(胃瘻)栄養~改訂版、フジメディカル出版、大阪、p29-34、2009

▲ページの最初へ戻る

あなたは医療関係者ですか?
この先のサイトで提供している情報は、医療関係者を対象としています。
一般の方や患者さんへの情報提供を目的としたものではありませんので、ご了承下さい。
いいえ
はい