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Chapter1 PEG
6.合併症・トラブル 1.造設時
⑤瘻孔感染


鶴岡協立病院消化器内科 髙橋美香子

髙橋美香子
記事公開日 2011年9月20日

1.診断基準

従来は「瘻孔感染」について明確な定義がなく、各自が個別の基準で判定しており、数%から40%程度と発生頻度にもばらつきが多く、その比較は困難であった。

2004年に第2回PEGコンセンサスミーティングにおいて、PEGにおける「Complication」の定義が提唱されて以来、瘻孔感染の定義には「Jainの基準」が広く用いられるようになっている(表1)。これによって、発生頻度の造設方法や施設間の比較が可能になっている。

表1 Jainの基準
発赤 浸出液 硬結

0~発赤なし

0~浸出液なし 

0~硬結なし

1~直径<5mm

1~漿液

1~直径<10mm

2~直径 6~10mm

2~漿液血液状

2~直径 11~20mm

3~直径 11~15mm

3~血性

3~直径>20mm

4~直径>15mm

4~膿性

 

スコアの合計が8点以上、もしくは明らかな膿汁の流出がみられたときに「感染あり」とする。

2.原因

「瘻孔感染」は造設後早期、慢性期の何れにも発生し、同じ診断基準で判定している現状である。しかし、造設早期の瘻孔感染には造設手技の影響が大きく影響していることが分かっている。

口腔咽頭の細菌の存在、内視鏡操作による影響(嘔吐反射や胃の拡張など)、胃壁固定や外部ストッパーの圧迫による胃壁腹壁の血流障害などである。

造設早期の瘻孔感染は瘻孔が完成していないため容易に腹膜炎や敗血症に進展することが考えられ、より慎重な対応が求められる。

3.予防

口腔咽頭細菌によって引き起こされる早期創部感染症の発生の予防の観点からはIntroducer法による造設が有効であり、Pull/Push法の場合は口腔ケアの強化(歯科衛生士など)に加え、感染防止のためのセーフティーチューブ一体型キット(図1)やオーバーチューブ(図2)の使用などが有用である。特に難治性の創感染を引き起こすMRSAの存在が証明されている場合には造設時にこういった配慮をすることが望ましい。

図1 感染防止セーフティーチューブ一体型キット
図1 感染防止セーフティーチューブ一体型キット
図2 オーバーチューブ
図2 オーバーチューブ

一方、造設後早期の創感染のもう一つの発生要因は、胃壁固定の締め付けや、瘻孔形成を促進させるための胃瘻ストッパーの圧迫が強すぎることにより局所の血流が障害され、結果として良好な瘻孔形成が阻害されてしまうことがある。逆に胃壁固定やストッパーの圧迫が緩すぎれば手技が不安定になったり、気腹の増加、瘻孔形成の遅延といった不利益もあるのでバランスが大切と言える。

4.対処法

毎日観察すること。Jainの基準のスコアリングをクリティカルパスに入れ込み、瘻孔の状態を客観的に継続的にモニタリングすることで早期発見につながる。

発生時には消毒ではなく洗浄を強化し、胃壁固定糸がきつすぎる場合(図3)には早期に抜糸する。ストッパーの圧迫が強すぎる場合は慎重に緩め、状況によっては切開排膿を行ったり、瘻孔完成まで栄養剤の投与を中止することも考える必要がある。

図3 きつすぎる胃壁固定による瘻孔感染
図3 きつすぎる胃壁固定による瘻孔感染

文献

  1. 髙橋美香子ほか:在宅医療と内視鏡治療8:60-62,2004
  2. 曽和融生:胃瘻(PEG)と栄養、PEGドクターズネットワーク、東京、p45-47,2004
  3. 倉敏郎・髙橋美香子:PEGのトラブルA to Z、PDN、東京、p38,2009
  4. 松本雄三:在宅医療と内視鏡治療9:84-89,2005

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