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Chapter1 PEG
6.合併症・トラブル 3.カテーテル管理
①バンパー埋没症候群


イオンタウン田崎総合診療クリニック 城本和明

城本和明
記事公開日 2011年9月20日
2018年8月21日改訂

1.バンパー埋没症候群とは

胃瘻カテーテルの内部ストッパー(内部バンパー)が胃壁瘻孔内に埋没することで生じる有害事象をバンパー埋没症候群(Buried Bumper Syndrome;以下BBSと略)と呼ぶ。

2.発症機序と原因

一定の強さで一定の時間以上内部ストッパーが瘻孔部胃粘膜に接触すると、局所の胃粘膜は血流障害を起こして脆弱化する。内部ストッパーの接触圧迫が解除されない限り、胃粘膜~胃壁の破たんは確実に進行し、創傷治癒機転を伴いながら内部ストッパーは胃壁瘻孔内に徐々に迷入埋没してゆくことになる(図1)。

図1 発生機序
図1 発生機序
(「PEGのトラブル A to Z」p81の図1を引用)

内外ストッパーによる強すぎる締め付け、ガーゼやスペーサーによる過度の固定、短すぎるシャフト長のボタン留置、腹壁厚の増加(肥満や腹水)による相対的なシャフト長の短縮化、体位や姿勢による慢性的なカテーテルの牽引などがBBSの原因となる。いずれも、胃粘膜・胃壁への内部ストッパーの強い接触圧迫が、一定期間持続することが共通の要因である。

3.特徴

BBSの初めての報告は1988年である1,2)。頻度は0.6~1.9%3)と報告により差がある。

BBSは術後早期であれ慢性期であれ、胃瘻管理のどの時期にも発生しうる。以前は慢性期に多い合併症とされてきたが、PEG施行数の増加とカテーテルキットの多様化に伴い、最近は造設後早期にも認められる4,5)図2、図3)。

図2 交換後の気腹例
図2 バンパーボタンで造設後、1週目に胃瘻瘻孔周囲に発赤・圧痛・排膿を認めた。
図2 交換後の気腹例
図3 バンパーボタンで造設後4日目に出血が出現。
   出血性胃潰瘍を認めた。 バンパー埋没の初期像と思われる。

BBSを生じるPEGカテーテルの種類としては、内部ストッパーがバンパータイプであるものが圧倒的に多いが、バルーンタイプでも生じうる6)ため注意が必要である。

ボタンタイプでは、造設時に短すぎるシャフト長のカテーテルを留置したことが原因として多い5)図2、図3)。

チューブタイプでは慢性的なストッパーの締め付けが原因となる例が多い。さらに、患者の体型や日常の姿勢・体位変換によっても発生しうる。

<Pitfall①>

慢性期には、体型、姿勢、体位の変化次第でBBSが生じうることに注意。

4.分類

埋没の程度によって、「完全型」と「不完全型」に分ける。胃内腔に内部ストッパーが全く確認できず、完全に瘻孔が消失したものを「完全型」、内部ストッパーの一部が確認でき、かろうじて瘻孔が保たれているものを「不完全型」と呼ぶ(図4)。

図4 完全型(左)と不完全型(右)
図4 完全型(左)と不完全型(右)

5.症状

カテーテルからの血性逆流、カテーテルの可動性不良~不可、栄養剤の注入困難、瘻孔からの漏れ・逆流、瘻孔からの膿汁分泌、皮膚の発赤・腫脹・びらん、圧痛、筋性防御、皮下膿瘍、脂肪織炎、疼痛、発熱など多彩である。

もっとも客観性が高い徴候は、カテーテルの可動性の不良~不可である。埋没の進行にしたがって、カテーテルの回転と上下動に抵抗が生じてくる。

BBSが発生しても必ずしも患者が「痛み」を訴えるとは限らないことに注意する。

同時に外部ストッパーが皮膚を圧迫し、皮膚障害を併発しているケースも多い。

埋没の初期に粘膜からの出血を伴えば、カテーテルからの血性逆流で気づくこともある(図3)が、必ずしも出血を伴うとは限らない。

瘻孔が開通している限りは、栄養剤の注入困難が生じない場合もある(不完全型)。逆に注入困難が生じればバンパー埋没の程度は強いといえる(完全型)。

埋没が進行すれば創傷は漿膜、腹膜、腹壁、皮膚に及び、多彩な症状が出現することになる。

6.診断

確定診断は、内視鏡、造影、EUS、CT等で行う(図5、図6)。

図5 バンパーチューブで造設後9日目に、胃瘻周囲に腫脹と発赤が出現。
図5 バンパーチューブで造設後9日目に、胃瘻周囲に腫脹と発赤が出現。
   透視で胃壁内にバンパーを認めた。
図6 バンパーボタンで造設後5ヵ月でBBS発症。
図6 バンパーボタンで造設後5ヵ月でBBS発症。
   腹壁の脂肪織炎、膿汁排出、筋性防御、発熱、不良肉芽あり。
   栄養剤の滴下は可能であった。

<Point>

カテーテルの動きは、滑らかに「くるくる回る」、軽やかに「上下に動く」のが正常。(図7)

抵抗がある場合は、バンパー埋没を疑う。

図7 予防
図7 予防
(「PEGのトラブル A to Z」p85のイラストより引用)

7.治療処置

埋没したバンパーの除去、創部の手当て、カテーテルの再留置・再造設を行う。

(完全型の場合)

多くは経皮的に抜去可能である。オブチュレーターで内部ストッパーを伸展させて抜去するが、皮膚に小切開を加えなければならない場合もある。さらに、内部ストッパーと組織が固着して抜去が困難な場合は、外科的処置、腹腔鏡を用いた処置7,8)が必要となる。カテーテル除去後は、ガイドワイヤー等で瘻孔が確保できれば新たなカテーテルを再留置する(図8)。この際十分なシャフト長を維持することに留意する。瘻孔が確保できない場合はあらためて再造設を行う。

図8 瘻孔確保⇒直ちに再留置
図8 瘻孔確保⇒直ちに再留置

(不完全型の場合)

チューブタイプの場合はオブチュレーターで内部ストッパーを伸展させて胃内腔に押し戻したり、内視鏡でストッパーを把持し引っ張って整復を試みる。組織の損傷や周囲の炎症が小さく、かつ、十分なシャフト長を確保できれば、整復後は同じカテーテルを再利用できる。

ボタンタイプの場合は、シャフト長にゆとりがないため、オブチュレーターで内部ストッパーを伸展させて経皮的に抜去するか、内視鏡下に内部ストッパーを切離回収する事が多い。内部ストッパーと組織が固着している場合には、スネア、針状メス、ITナイフ等を使用して粘膜切除を行い、ストッパーをフリーにした後、回収する(図9)。

図9 造設3年後に、胃瘻カテーテルが抜去出来ず交換不能となった。前回から4ヵ月と20日ぶりの交換であり、その間胃瘻カテーテルの回転は行っていなかった。
図9 造設3年後に、胃瘻カテーテルが抜去出来ず交換不能となった。
   前回から4ヵ月と20日ぶりの交換であり、その間胃瘻カテーテルの
   回転は行っていなかった。

完全型であれ不完全型であれ、重症のBBSでは瘻孔部の胃壁、腹壁、皮膚の感染、炎症を伴っている場合が多い。したがって、局所の安静とドレナージを優先し、炎症の消退を待ってカテーテルの再留置、再造設を行うことが多い(図10)。

図10・1 ワンステップボタンにて造設11日目にBBS発症。
図10・1 ワンステップボタンにて造設11日目にBBS発症。
図10・2カテーテルの再留置は急がず、創傷の手当てを優先する。
図10・2カテーテルの再留置は急がず、創傷の手当てを優先する。
図10・3 創傷の改善後にカテーテルを再留置した。
図10・3 創傷の改善後にカテーテルを再留置した。

<Pitfall②>

栄養剤の注入が可能でも油断禁物。瘻孔が少しでも開通していれば栄養剤は注入できるから。

8.予防

内部ストッパーと胃粘膜との過度の接触圧迫を防止することにつきる。そのためには体表面と外部ストッパーの距離(遊び)は1センチ以上必要である。特に造設直後は胃粘膜に浮腫が生じるため、1センチ未満の遊びでは危険である。ボタン型の場合はシャフト長の調節ができないために、余裕のあるサイズのカテーテル選択が必須である。

<Advice>(図11)

図11 予防
図11 予防
(「PEGのトラブル A to Z」p35の図3を引用)

①造設時、ガーゼやスペーサーの圧迫固定はゆるめに。

②造設カテーテルキットの種類によらず、胃壁固定を併用すれば外部ストッパーの位置をゆるめに設定できる利点あり。

③特にボタン型の場合、「1センチ未満の遊び」ではシャフト長として不足する。「1~1.5センチの遊び」が適正である。

資料提供

伊東 徹(南薩ケアほすぴたる)、寺倉 宏嗣(熊本赤十字病院)、瀬戸山 博子(熊本労災病院)、髙橋 美香子(鶴岡協立病院)、倉 敏郎(町立長沼病院)

文献

  1. Gluck M et al. Retraction of Sacks-Vine gastrostomy tubes into the gastric wall: report of seven cases. Gastrointest Endosc 34:215,1988
  2. Shallman RW et al. Percutaneous endoscopic gastrostomy feeding tube migration and impaction in the abdominal wall. Gastrointest Endosc 34:367-8,1988
  3. Ahmet ERDİL et al.The buried bumper syndrome:The usefulness of retrieval PEG tubes in its management.The Turkish Journal of Gastroenterology 19(1):45-48,2007
  4. Khalil Q et al.  Acute buried bumper syndrome. South Med J. 103(12):1256-8,2010,Dec
  5. 小川滋彦ほか:PEGのトラブルA to Z 、PDN、東京、P34-35、2009
  6. Kim YS et al. A case of buried bumper syndrome in a patient with a balloon-tipped percutaneous endoscopic gastrostomy tube. Endoscopy, 38: E41-E42,2006
  7. P. Ballester & B. J. Ammori : Laparoscopic Removal And Replacement Of Tube Gastrostomy In The Management Of Buried Bumper Syndrome . The Internet Journal of Surgery.5(2):2004
  8. E. Leung et al. A new endoscopic technique for the buried bumper syndrome.Surgical Endoscopy 21(9):1671-1673,2007

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