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記事公開日 2011年9月20日

1.地域連携の必要性

胃瘻を管理するうえで重要なことは、胃瘻患者は多くの場合ひとつの病院だけで管理されることがないことである。つまり造設は主に急性期病院で行い、その後の管理は療養病院、介護施設、在宅で行うということが多い。

そして胃瘻はあくまでも栄養管理のためのツールであって継続的に栄養管理を行える体制がないと胃瘻を造った意味がないということである。(表1

表1 胃瘻をめぐる課題
  1. 造るのは急性期病院、管理するのは施設、療養型、在宅であるということ
  2. 胃瘻はあくまでも栄養管理の一つのツールであるということ

これだけ胃瘻に関する知識、技術が普及した現在でも胃瘻をめぐる管理上の課題は十分に解決していない。造設医にとってはPEGを造って終わりであっても胃瘻患者やその家族にとっては造設後より続く長期間にわたる胃瘻ライフの始まりにしかすぎない。

つまり胃瘻ライフを継続的に支えていく体制ができていなければ胃瘻は患者や家族にとって苦痛や負担をもたらすものになる。快適な胃瘻ライフを過ごしてもらうためには胃瘻管理や栄養管理について患者中心のシームレスな連携体制をそれぞれの地域で構築することが必要である。つまり胃瘻管理、栄養管理の地域連携システムの構築が求められている。

2.胃瘻ケアのための連携

胃瘻ケアにおいては、急性期病院では専門的な知識を持つ医師、看護師、栄養士などが揃っているが、受け取る側の施設、在宅のスタッフが十分な知識、技術を持っていることは少ない。これは勉強不足と言うわけではなく、さまざまな疾患の患者に対応することが必要なこと、またPEGキットや栄養剤のメーカーなどから資料を受け取る機会、学会などに参加する機会なども少ないためである。

現実には胃瘻カテーテルのケア、スキンケアなどについて十分な知識を得たい施設や在宅スタッフは多い、そのためにはスタッフの揃っている病院側が定期的に講習会やPDNセミナーなどを開催し地域全体に胃瘻ケアの知識・技術を正確に伝えることが重要になってくる。このことによって患者や介護者も安心して胃瘻ライフを送れることになる。

3.胃瘻カテーテル交換のための連携

胃瘻カテーテル交換は胃瘻患者にとっては大きな負担にもなるし、安全に交換できないと重篤な結果をもたらすことになる。しかし退院後の情報提供書には次回どこでいつ交換なのかなど記載されず、患者も知らないことも多い。施設や在宅で関わっている医師の多くは交換は「リスク」だと感じている。胃瘻カテーテル交換がその施設でできない場合には造設病院で行うことになるが、造設医がいなくなったなどの理由で断られる場合もたびたび経験する。

また胃瘻ライフを続けているうちに異なるタイプのキットに変えてほしい場合などにも、うまく連携が取れていないと患者の望むタイプのキットに変更できないことも経験する。地域で交換申し込みの窓口、交換のための連絡方法などを決めておくと管理する医師やスタッフは安心できる。

施設や在宅で交換する場合には交換後の確認のための造影や胃内視鏡検査が必要になるが実際に行うのはなかなか難しい。胃瘻カテーテル交換用の胃内視鏡検査機器(経胃瘻カテーテル内視鏡)の購入は、月に1件くらいしか交換しない診療所では負担が多く、洗浄機器を持たないところでは不可能になってしまう。できないからと言って病院にそのたびに搬送するのは患者の経済的、身体的負担が大きくなってしまうとともに病院医師の負担にもなる。

そのため、熱心な地域の医師への交換技術のサポート、必要ならば地域で胃瘻カテーテル交換用の胃内視鏡検査機器の貸し出しシステムなどの連携関係を作ることが必要と考える。

4.栄養管理のための連携

胃瘻は栄養管理のためのツールであって適切な栄養管理を行えなければ何のために胃瘻を造設したのかわからなくなってしまう。

胃瘻を造った時に算定した必要エネルギー量と施設や在宅に移った後の必要エネルギー量は必ずしも同じではなく、太ったり逆に痩せてしまうことも多くみられる。在宅などでのリハビリテーションの程度などにより必要エネルギー量、水分量を調節することが必要となる。

また栄養剤注入による合併症予防、介護者の負担などを考えて栄養剤の半固形化、栄養剤の変更などが必要になる方もおられる。しかし栄養士を常駐させている診療所はほとんどなく、栄養管理の面でも病院のNSTスタッフとの連携は必要となってくる。(図1

また老化や認知症に伴う摂食障害などによって低栄養状態になった場合の栄養管理にPEGやTPNを選択しない場合にその後の経過を診ていくことのできるかかりつけ医との連携が必要である。

図1 栄養管理に関する地域連携
図1 栄養管理に関する地域連携

5.摂食・嚥下に関する連携

PEGは急性期に造られることが多く、またDPCの影響などで在院日数が短縮化されているため早期に施設や在宅に移ることが多くなってきている。そのような患者の一部には入院中の摂食・嚥下機能検査で食事摂取が無理と判断されても、退院後に連携によって経口摂取が回復し胃瘻が不要になったり、お楽しみ程度に食事摂取ができるようになることがしばしば経験される。

つまり胃瘻を造ったから経口摂取をあきらめるのではなく、胃瘻を造って経口摂取の可能性を探るということがよりよい胃瘻ライフのためには不可欠となっている。実際には在宅医が摂食・嚥下機能評価を行うのは難しいため、函館ではいくつかのパターンで連携を行っている。(表2

表2 摂食・嚥下リハビリテーション連携

急性期を過ぎた後の摂食・嚥下評価が大切

  1. 胃瘻連携パスで1泊入院交換時に評価
  2. リハビリテーション科の外来受診でVE,VFなどを受けられる
  3. 歯科医が在宅で行う評価

患者や家族のニーズに合わせて摂食・嚥下評価を行い在宅や施設でSTなどの協力のもと摂食・嚥下リハビリテーションを行うことが可能になる。また歯科医との連携により口腔ケアも質の高いものが可能になり、肺炎などの予防にもつながっていると考えている。

6.連携のために必要なこと

これまで述べてきたように胃瘻ライフを快適なものにするためには地域の医療・介護・福祉スタッフとの連携がとても重要である。

退院後の患者の療養環境、栄養管理の方法や介護者の年齢、技能に合わせたPEGキットの選択が造設前から話し合われることが必要で、造設医の好みによって一方的に造られた胃瘻は逆に負担になってしまうこともある。胃瘻造設前に必要に応じて退院後のスタッフとの連携会議、または退院前カンファレンスの開催などを行うことでお互いのニーズを知ることができスムーズな連携関係を構築することができる。また退院後には胃瘻患者に関わるすべてのスタッフが胃瘻や療養状況に関しての話し合いを担当者会議などで行うことで合併症の対策などを早期から進めることが可能になる。

退院時にはPEGキットの種類、交換時期、交換場所などを書いた連絡票だけでなくどうしてこのキットや栄養剤を選択したのか、困った時の相談窓口などについて書いてあると受け取り側は助かる。細かい確認点が記載され継続的に胃瘻を管理するために胃瘻の地域連携パスを活用されているところも増えつつある。

パスもあくまでツールであり、その土台となる顔と顔の見える連携システムの構築のためには急性期病院が中心となってPDNセミナーなどを開催して一緒にフランクに話し合える環境作りがとても大切と考えている。

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