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Chapter1 PEG
2.2疾患別 PEG適応③頭頚部癌


菊池 志乃1)、二階堂 光洋2)、宮本 心一3)、武藤 学4)

1)名古屋市立大学医学研究科 緩和ケアセンター
2)京都大学大学院医学研究科 消化器内科学講座
3)京都医療センター 消化器内科
4)京都大学大学院医学研究科 腫瘍薬物治療学講座

記事公開日 2020年6月1日 
2023年2月14日版

1.頭頸部癌とは

頭頸部は顔面を含む頭部から頸部のうちで脳や脊髄、眼窩を除いた領域を指します(図1:青い点線の左内側)。解剖学的には口腔、咽頭、喉頭、鼻腔、副鼻腔、聴器、甲状腺、唾液腺などが主な臓器となり、この領域に発生する癌を総称して頭頸部癌と呼びます。主な頭頸部癌は原発部位から舌癌、咽頭癌、喉頭癌などと呼ばれます。病理組織型は唾液腺癌と甲状腺癌、一部の聴器癌を除けば、ほとんどが扁平上皮癌です。

頭頸部(青い点線の左内側)
図1 頭頸部(青い点線の左内側)

頭頸部は呼吸や摂食といった生命維持に必須の機能のほか、発声や味覚、嗅覚、聴覚、そして表情を作るといった社会生活に重要な機能をつかさどっています。このため頭頸部癌では癌の症状だけでなく、治療によっても日常生活に支障をきたす可能性があり、治療の目的は根治性のみならず、機能や表情の温存といった生活の質(QOL)も考慮することが大切となってきます。

2.頭頸部癌の疫学

頭頸部癌の発生頻度は胃癌や大腸癌、肺癌などに比べると低く、日本人の発症は年間1万5千から2万人程度で、全ての癌の5%程度です。
一般に頭頸部癌は50歳代から60歳代の男性に多く、その原因として飲酒や喫煙が挙げられてきました。しかし、近年は飲酒家や喫煙者が年々減少し、喉頭癌が減少する一方で、飲酒や喫煙歴の乏しい若い方や女性での咽頭癌や口腔癌の頻度は増加しています。例えば上咽頭癌は20-30歳代での発症が見られます。また、下咽頭癌の一部と甲状腺癌は女性に多い傾向があります。頭頸部癌は、喫煙や過度の飲酒以外にもヒトパピローマウイルスやEBウイルスといったウイルス感染が発症に関わっていることが知られています。

3.頭頸部癌の診断

頭頸部癌の診断では問診、視診、触診に加えて喉頭鏡や内視鏡、超音波などを部位に応じて使い分けます。疑わしい病変が見つかればその一部を採取(生検)し、顕微鏡で病理検査をして確定診断となります。また、CTやMRI、FDG-PETなどの画像検査を組み合わせて癌の進行度(病期)についても診断を行います。
頭頸部癌の病期の評価には原発病変の大きさと周囲への浸潤の程度(T)、領域リンパ節転移の大きさと節外浸潤の有無(N)、他の臓器への転移の有無(M)の3項目からなるTNM分類が用いられます。頭頸部癌の病期は0期、Ⅰ期、Ⅱ期、Ⅲ期、Ⅳ期(ⅣA、ⅣB、 ⅣC)に分類され、治療方針を決定するための指標となります。TNM分類の細かな基準は解剖学的な部位によって異なります。
頭頸部癌では多重癌(同一臓器に複数の癌ができる)が多いことに加え、重複癌といって原発部位とは全く異なる部位に癌が発生しやすいことが知られています。最も多いのが食道で、続いてほかの頭頸部、胃、肺、肝の順とされています。このため、診断の際には多重癌、重複癌を念頭に置いた全身検索を行い、治療方針を決める必要があります。

4.頭頸部癌の治療

一般的に癌の治療方針は原発部位や病理組織型、病期などにより決定され、年齢、栄養状態、合併症も考慮されます。特に頭頸部癌の場合は治療の強度と臓器・機能温存の程度が相反する場合があり、個々の状況に応じて決定されます。具体的には手術療法、放射線療法、化学療法(抗癌剤や分子標的薬など)の集学的治療が行われてきました。これに加え、最近ではがん光免疫療法やホウ素中性子補足療法など全く新しい作用機序の治療法も登場してきています。
 このほかにも禁酒や禁煙外来、栄養指導などの支持療法や痛みや心理的な苦痛に対する症状緩和を目的とした緩和治療、口腔ケア、リハビリなども並行して行われています。

手術療法

頭頸部癌は解剖学的にも組織学的にも異なる癌の総称です。このため、治療は発症部位や病理組織型によって違いますが、基本的に頭頸部癌の根治治療の柱は手術療法です。ただし、根治性のため完全切除が重視される一方で、術後の機能温存という点から低侵襲性も求められます。NBI(狭帯域光観察)や拡大観察などの内視鏡診断の進歩により咽喉頭の表在癌が発見されるようになってきました。また、内視鏡や、ロボットを用いた手術など低侵襲な治療ができる施設も増えてきています。このほか、癌を取り除く手術以外にも、嚥下機能を改善や切除部位の整形のために再建術なども行われています。

放射線療法

放射線療法はX線などの強い放射線を使って癌を縮小・消失させる治療です。頭頸部癌に多い扁平上皮癌は放射線の効果が高いため、術前や術後の補助的な役割だけでなく、機能温存の目的や全身状態などから手術に代わる根治治療として単独あるいは化学療法と併用して選択されることがあります。また、痛みを和らげる緩和治療としても用いられることもあります。近年は正常組織の被ばく線量を減らし、癌部に集中的に放射線を当てるIMRT(強度変調放射線治療)などの技術が進歩してきており、根治療法として用いられることも増えています。また、重粒子の治療も2018年4月から頭頚部癌で保険適応になりました。

化学療法

抗癌剤や分子標的薬を用いて癌細胞の増殖を阻止する治療となります。頭頸部癌における化学療法は目的や治療時期によって「導入化学療法」、「化学・放射線併用療法」、「緩和的化学療法」などに区別されます。「導入化学療法」は、手術や放射線治療といった根治治療を行う前に癌を小さくすることで治療成績を高め、画像では見つからない微小な遠隔転移を根絶することを目的としています。また、癌が非常に小さくなった場合は機能温存のために切除範囲を縮小することも可能です。「化学・放射線併用療法」は化学療法と放射線療法を同時並行して行う方法です。それぞれ単独の治療に比べ、高い効果が得られ、手術に代わる根治療法として行われます。また、再発・遠隔転移症例には、根治は目指せないものの進行を抑え、癌による症状発現の遅延や延命効果を得るために「緩和的化学療法」を行います。従来の抗癌薬に加え、分子標的薬としては上皮増殖因子受容体(EGFR)抗体なども使用されます。

5.頭頸部癌に対する胃ろうの適応

頭頸部は摂食に直接関与するため、頭頸部癌では様々な段階で経口摂取が困難となり、栄養状態を保つことが難しくなります。また、栄養状態の悪化は生活の質(QOL)の低下だけでなく治療の中断や中止、治療強度低下の原因となり、治療成績の悪化にもつながります。そのため栄養に関する支持療法は治療開始時点から積極的に行われ、栄養の補給路を確実に確保することが重視されます。米国静脈経腸栄養学会ガイドラインにもあるように消化管の機能に問題ない場合は、胃ろうによる経腸栄養が優先されます(図2)。とくに進行癌においては術前や術後に化学療法や放射線療法を組み合わせることが多いため、口内炎や口唇炎など有害事象の出現により経口摂取が難しくなることがあります。このため、胃ろう造設は頭頸部癌の治療をサポートする非常に重要な位置を占めています。

栄養補給の投与経路(米国静脈経腸栄養学会ガイドライン)
図2 栄養補給の投与経路(米国静脈経腸栄養学会ガイドライン)

治療開始前にあらかじめ胃ろう造設を行うことで経口摂取が難しくなったときも栄養状態を保ち、治療の完遂を目指しやすくなります。胃ろうによる経腸栄養は、鼻からチューブを入れる経鼻経腸栄養や太い血管から点滴を行う中心静脈栄養に比べて不快感や合併症が少ないため中-長期の栄養管理に適しています。また、栄養管理が自分や家族でも簡単にできるため、在宅への移行がスムーズに進みます。これは早期退院や早期の社会復帰を促し、QOLの向上にもつながります。胃ろうから栄養注入をしていても口から食事をとることは可能であり、嚥下機能が回復し、口から十分な栄養がとれるようになれば、胃ろうはいつでも抜去することができます。不要になった胃ろうは外来で抜去でき、抜去当日から経口摂取が可能です。このように頭頸部癌に対する胃ろうは水分・栄養路としてだけでなくQOLや治療成績の向上にも役立っています。ただし、胃ろう造設は「腹壁と胃に穴をあける手術」であり、術後の痛みや違和感が生じるだけでなく、造設時に出血や周囲の腸管などを傷つけるリスクもあります。また、浸出液や器具による皮膚炎や肉芽形成、創部感染などの問題や長期的に胃ろうに依存することで嚥下機能の低下や口腔内の衛生環境の悪化が起こる可能性があります。このため、頭頸部癌では手術前後や化学・放射線療法に伴う一時的な嚥下障害やそれに伴う栄養障害が予想される場合、栄養管理を必要とする期間や胃ろう造設によるメリットとデメリットを踏まえて、経鼻胃管や中心静脈栄養を選択するか胃ろうを造設するかを十分に検討することが大切です(表1)

表1 胃ろう造設によるメリットとデメリット
胃ろう造設によるメリットとデメリット

このほか、癌の進行により経口摂取ができなくなった終末期においても胃ろうを用いることで良い栄養状態を維持したまま在宅療養が可能となります。また点滴に代わる水分・栄養補給路だけでなく投薬路としても使用でき、癌性疼痛にも対応可能なため、在宅ホスピスへの選択肢を広げることもできます。
このように、頭頸部癌において胃ろうは治療前から終末期医療まであらゆる局面で選択肢に挙がります。なによりも頭頸部癌の患者さんの多くは胃ろう造設に関して自分自身で意思決定および意思表示をすることができます。このため、治療者だけでなく、患者さん自身も胃ろうに関して十分な知識を得、メリットとデメリットを理解した上で上手く治療に取り入れていくことが望まれます。

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