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高齢者の排便コントロールと
グアーガム加水分解物


ちゅうざん病院 副院長・金城大学 客員教授 吉田 貞夫

吉田 貞夫
記事公開日 2018年11月9日

高齢者は、便秘になりやすいといわれている。便秘には、弛緩性便秘、痙攣性便秘、直腸性便秘などいくつかのタイプが知られているが、高齢者では、消化管の蠕動が弱くなるために発症する弛緩性便秘のタイプが多い1,2)。便秘を放置すると、やがて腹圧が上昇し、食欲が低下したり、嘔吐や胃食道逆流により重症の肺炎を発症してしまう症例もある。

便秘を改善するために、緩下剤や、大腸刺激薬のようないわゆる「下剤」を処方されている高齢者も少なくない。このような薬剤は、比較的安全性は高いが、有害反応(副作用)がみられることもある。緩下剤の酸化マグネシウムでは、高マグネシウム血症により、嘔吐、血圧低下、徐脈、筋力低下、傾眠などが認められる可能性があるほか、死亡例も報告されている。大黄、センナなどの大腸刺激薬では、腸粘膜にメラニン様色素が沈着する大腸メラノーシスと習慣性が問題となる。大腸刺激薬を使用し続けることにより、腸の蠕動、反応性が弱くなり、大腸刺激薬を使用しないと排便が困難となってしまう。

また、胃瘻などから経腸栄養を行う高齢者では、しばしば下痢が問題になる。下痢が続くと、本人の不快感もさることながら、肛門周囲の発赤、腫脹を生じ、激しい疼痛をともなうことがある。タンパク質やエネルギー、微量栄養素などの吸収不全により、低栄養状態となることも考えられる。糖尿病で血糖降下薬やインスリンを使用している症例では、低血糖のリスクもある。

経腸栄養中の下痢の原因は、必ずしも栄養剤であるとは限らない。C.difficileによる腸炎や乳糖不耐症、虚血性腸炎などさまざまな原因が考えられ1,2)、原因に応じた適切な対応が必要となる。

高齢者などで問題となる弛緩性便秘や下痢には、食物繊維が有効だといわれている。なかでも、とくに注目されているのは、グアーガム加水分解物(PHGG;Partially Hydrolyzed Guar Gum)である。PHGGは、水溶性の食物繊維で、水との親和性が高いので、便の水分量を維持し、便が固くなりすぎないよう、便性状をコントロールする働きがある。また、腸内細菌の発酵により酪酸などの短鎖脂肪酸(SCFA;Short Chain Fatty Acid)を産生する。酪酸は、上皮細胞表面にあるモノカルボン酸トランスポーター MCT-1などを介して取り込まれ、大腸粘膜のエネルギー源となり、ナトリウム、水の吸収を増加させ、下痢を改善させる。また、消化管ホルモン GLP-2などを介して、大腸粘膜の増殖、分化を促進し、細胞死(アポトーシス)を抑制、大腸上皮のクリプトを成長させる(図1)。これらの働きにより、腸管内の水分が適度に維持されるほか、腸管内の細菌や真菌、それらの毒素が体内に侵入(バクテリアル・トランスロケーション)しないようにする防御機構として役立っている。SCFAは有機酸なので、腸内のpHを酸性側に保ち、乳酸菌やビフィズス菌を増やし、クロストリジウム属の増殖を抑え、腸内細菌叢を改善する。これらの作用により、術後や、侵襲下などの症例で経腸栄養を行う際でも、下痢を防ぎ、安定して経腸栄養を継続させることができたという報告もある3)。食物繊維によっては、微量元素の吸収を阻害する場合もあるが、PHGGは、むしろカルシウムやマグネシウムなどの吸収を改善するともいわれている4)

図1 グアーガム分解物(PHGG)の働き
図1 グアーガム分解物(PHGG)の働き

自験例で、PHGGを強化することによって、下痢を改善し、良好な排便コントロールを行うことができた事例を紹介する。進行性核上性麻痺のため胃瘻を造設している84歳男性で、もともと酸化マグネシウムを1日2g内服していたが、血清マグネシウム濃度が2.8〜3.2mg/dlまで上昇したため、センノサイドに変更した。その後、下痢状の便が続いていたため(図2左)、センノサイドを中止し、PHGGを1日18g追加し経過を観察したところ、便秘となることもなく、程よい硬さの便へと便性状を改善することができた(図2右)。PHGGは、用量依存性に下痢防止の効果を発揮するといわれている。今回の症例でも、1日18gと十分量を用いることで下痢を改善することができたと思われる。

図2 グアーガム分解物 (PHGG)を強化して排便コントロールを行った事例
図2 グアーガム分解物 (PHGG)を強化して排便コントロールを行った事例

高齢者の栄養ケアでは、「入口」から「出口」まで、つまり、栄養を摂取することはもちろん大切だが、それがきちんと消化・吸収され、便がきちんと排泄されるところまで管理することが大切である。便秘や下痢に対して、薬剤に頼るのではなく、PHGGのような食物繊維を使用することにより、腸内環境に配慮した、より生理的で自然な排便コントロールができると思われる。


※慢性便秘症診療ガイドライン2017(日本消化器病学会関連研究会慢性便秘の診断・治療研究会)の
 専門的検査による病態分類では、大腸通過遅延型に相当。

文献

  1. 吉田貞夫.試してみたい便秘時の対応.吉田貞夫編著.高齢者を低栄養にしない20のアプローチ.事例でわかる基本と疾患別の対応ポイント.メディカ出版、2017年、p38-41.
  2. 吉田貞夫.食物繊維の種類と有用性.ニュートリションケア増刊.消化・吸収・代謝のしくみと栄養素のはたらき.2016年、p148-151.
  3. Meier R and Gassull MA. Consensus recommendations on the effects and benefits of fibre in clinical practice. Clinical Nutrition Suppl.(2004), 73–80.
  4. Hara, H., Nagata, M., Ohta, A., & Kasai, T. Increases in calcium absorption with ingestion of soluble dietary fibre, guar-gum hydrolysate, depend on the caecum in partially nephrectomized and normal rats. British Journal of Nutrition, 76(5), 773-784, 1996.

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