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Chapter2 経腸栄養
9.1 在宅経腸栄養


群馬大学 共同教育学部 特別支援教育講座 吉野浩之
        利根中央病院外科 外科 郡 隆之

 
郡 隆之 吉野浩之
記事公開日 2011年12月20日
2023年4月1日改定

<Point>

本項の目的は、病院と在宅それぞれの場における経腸栄養の違いを認識し、在宅患者の栄養管理を理解することである。在宅では患者の家族などの医療的な知識に乏しい介護者が扱うことが多いので、より丁寧なフォローが必要となる。また在宅の医療制度の特徴から使用する物品や栄養剤などに制限があり、患者の経済的負担が過剰にならないよう、基礎的な知識に基づいた配慮についても理解したい。

1.はじめに

近年、在宅医療は大きな広まりを見せている。患者にとって病院は「医療の場」、「非日常的な場」であり、急性期の治療が終わったら速やかに「生活の場」である在宅に戻ることが求められている。このことは、単に病院の在院日数を減らすなどの医療経済の問題のみならず、患者自身のQOL(quality of life)の向上や精神的安定にもつながる。しかし、在宅医療はその制度や関わるスタッフの職種、介護者の存在など、病院内で行われている医療と必ずしも同一のものではない。

在宅において経腸栄養をスムーズに行っていくためには、在宅医療独自の制度を理解し、在宅患者の生活の支援という認識を持ち、地域の様々な職種のスタッフとの連携を心がけることが求められる。

2.病院の医療と在宅医療

2.1 在宅医療とは

「在宅医療」は簡単に言うと「患者の生活の中に必要な医療を持ち込む」ことと言えよう。在宅医療は、患者の調子が悪い時に呼ばれて医師が患者宅に行くという「往診」というイメージが強いかもしれないが、むしろ定期的な訪問診療・訪問看護などが中心であり、これらを通じて日常的な健康を保持するとともに、症状の変化を早期に発見し可及的に在宅で医療行為を行い病状の悪化を防ぐとともに、必要に応じて高度医療機関への紹介を行うというものである。

在宅医療と言うと「寝たきりの高齢者医療」というイメージが強いかもしれない。しかし、対象となる患者は幅広く、虚弱な高齢者、脳卒中後遺症、神経筋難病といった患者はもちろん、末期がん、若年の障害者(頚椎損傷や頭部外傷後など)、重症心身障害の子どもなども少なくない。特に、末期がんでは「在宅緩和ケア」や、神経筋難病や重症心身障害児では「在宅人工呼吸器」などの、比較的高度な医療を在宅で行っているケースも少なくない。

また「在宅」という言葉は、「自宅」という意味の狭義の在宅だけではなく、特別養護老人ホーム、老人保健施設をはじめ、グループホームや有料老人ホームなど、さまざまな「介護系の場」を含んでおり、「在宅」の中にもさまざまな「場」があることに注意が必要である。

2.2 在宅医療に関わる職種

病院での医療と在宅医療では、それに関わるスタッフの職種や構成が大きく異なっている(図1)。病院における栄養管理では、管理栄養士はじめ、医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師などの医療スタッフ、OT・PTなどのリハビリスタッフに加えて、MSW(Medical Social Worker)、病院事務などのスタッフや、歯科医師や歯科衛生士のいる病院ではこれらのスタッフも加わっているであろう。対して、在宅医療では、在宅医、訪問看護師、ケアマネジャー、訪問ヘルパーが中心で、訪問リハビリ(OT、PTなど)の他、行政関係や保健師なども関わることがある。このように、ケアマネジャー、訪問ヘルパー、行政関係者など、通常、病院内にはない職種であり、こうした病院内ではなじみがない職種との連携が必要であることも忘れてはいけない。

図1 病院と在宅医療の職種
病院 在宅

医師

看護師

管理栄養士

薬剤師

臨床検査技師

MSW (Medical Social Worker)

OT・PT(・ST)

(歯科医師)

(歯科衛生士)

看護助手

訪問看護師

ケアマネジャー(介護支援専門員)

訪問ヘルパー

OT・PT(・ST)


医師(在宅医)

保健師・行政


歯科医師・歯科衛生士

(管理栄養士)

2.3 在宅経腸栄養法

経管栄養を在宅で行うものを「在宅経腸栄養法(Home Enteral Nutrition: HEN)」(以下HEN)と、また、在宅経腸栄養に際し“成分栄養剤”または“消化態栄養剤”といった栄養剤を使用した場合、「在宅成分栄養経管栄養法」と呼ぶ。

3.病院から在宅への移行

病院内で行う経腸栄養も、在宅で行う経腸栄養も、技術的には大きな変わりはない。
まずは、患者さんの転院後の行き先が重要であり、自宅へ帰るのか、リハビリ病院や病院の療養病床へ転院するのか、介護施設やグループホームへ行くのかを把握する必要がある。その「場」によって、経管栄養を管理する人が大きく異なっているからである。自宅の場合では、医療について素人である家族が主たる介護者であることが多く、それを何日かに1回、訪問看護師が訪問して助けるという形になるであろう。また施設などでは、その施設ごとに看護職や介護職の人数配置が異なっているほか、個々の施設ごとに方針が違うなどの事情もあり、行き先に合わせた指導や配慮が必要となる。

4.在宅経腸栄養の制度

在宅医療の中で請求できる項目は病院での請求と異なっていることが少なくない。こうした違いから、病院内で行っていた方針をそのままで在宅に移行すると、患者に大きな自己負担を強いることになったり、施設での管理で不都合が出ることがある。そのため、在宅と病院の制度の違いを理解しておく必要がある。

4.1 病院と在宅での保険請求の違い

病院に入院中の食事は「給食」がベースであろう。一方、自宅では当たり前のことではあるが、給食の請求はあり得ない。また、介護保険施設等の入所でも給食になることが多い。後で述べるように、給食は「食品」の濃厚流動食が中心となり、狭義の在宅である自宅のような給食でないところでは「薬品」の経腸栄養剤が中心となるであろう。また、腸瘻などでゆっくりした投与が必要な患者など経腸栄養ポンプを必要とする場合は、使用する経腸栄養剤に特別な配慮が必要となるなど、在宅特有の制度上の問題がある。

なお、経腸栄養剤の種類については、「第2章経腸栄養の分類」を参照されたい。

4.1.1 在宅経管栄養法指導管理料(図2)

●在宅成分栄養経管栄養法

在宅医療で請求できる患者に対する管理料の一つで、月に2,500点が請求できる。在宅成分栄養経管栄養法を行っている入院中以外の患者に対して、在宅成分栄養経管栄養法に関する指導管理を行った場合に算定するもので、栄養素の成分の明らかなもの(アミノ酸、ジペプチドまたはトリペプチドを主なタンパク源とし、未消化態タンパクを含まないもの)を用いた場合のみであり、単なる流動食について鼻腔栄養を行ったもの等は該当しない。つまり、成分栄養(エレンタール®)や消化態栄養剤(ツインライン®など)を投与している患者が対象となり、原因疾患の如何にかかわらず、在宅成分栄養経管栄養法以外に栄養の維持が困難な者で、当該療法を行うことが必要であると医師が認めた者とされている。

図2 栄養剤と在宅での管理料(2018年4月現在)

 

濃厚流動食

半消化態栄養剤

消化態・成分栄養剤

半固形栄養剤

在宅療養指導管理料

在宅寝たきり患者
処置指導管理料
(1,050点/月)

在宅成分栄養経管
栄養法指導管理料
(2,500点/月)

在宅半固形栄養経管
栄養法指導管理料
(2,500点/月)

注入ポンプ

算定不可

注入ポンプ加算
(1,250点/月)

算定不可

ボトル・チューブ
・その他消耗品

算定不可

栄養管セット加算
(2,000点/月)

栄養管セット加算
(2,000点/月)

在宅時医学総合管理料

算定可

算定可

算定可

この指導管理料を請求するのは、エレンタール®ツインライン®を投与されている患者のみであり、逆に、これを請求するためには上記の薬剤の投与が必須となる。

4.1.2 と 4.1.3 に述べる2つの「加算」は、在宅成分栄養経管栄養法指導管理料の請求に対する加算であるため、例えば「ポンプ加算」を取るためには、在宅成分栄養経管栄養法指導管理料の請求が必要であり、従って、成分栄養等の薬剤であるエレンタール®ツインライン®を投与されている必要がある。また、これらの薬剤以外の濃厚流動食や薬剤を使用している場合は、経管栄養に関わる費用は4.1.4の「在宅寝たきり患者処置指導管理料」に含まれることになる。

こうした制度上の問題を理解しつつ、病院から在宅への移行を行う必要がある。

●在宅半固形栄養経管栄養法

2018年4月より在宅半固形栄養経管栄養法指導管理料が新設されました。新設された在宅半固形栄養経管栄養法指導管理料は、加算対象患者の範囲、算定取得のための付帯事項、算定可能な期間などが規定されているので算定の際には上記について確認する必要がある。
【加算対象患者】
本加算は、①半固形栄養療法を行っている在宅患者と、②半固形栄養療法を在宅で予定の入院患者の退院月に算定が可能である。原則、在宅患者が加算対象で入院患者や医師の配置が義務づけられた施設入所者は対象にならない。具体的に加算取得可能な施設は、自宅、サービス付き高齢者住宅、有料老人ホーム、グループホーム、小規模多機能型居宅介護、複合型サービスであり、加算取得できない施設は、急性期・慢性期病院、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院である。
例外として、入院患者は退院後在宅で半固形化経腸栄養を行う予定であれば、入院中に退院後の指導を行った場合には退院月のみ算定が可能である。また、退院日に胃ろう造設病院が指導管理料を算定しても受け手側の訪問診療医は同歴月に算定が可能である。診療報酬明細書(レセプト)摘要欄に算定理由を記載することによって、退院月に2つの医療機関で算定できる。
加算取得のための付帯事項:本加算は上記の対象患者すべてで算定できるわけではない。以下の付帯事項を満たしている必要がある。
①「胃ろうを造設して1年以内の症例」かつ「医師が経口摂取回復に向けて在宅半固形栄養経管栄養法を行う必要を認めた症例」であること。
② 算定中は経口摂取回復に向けた指導管理(口腔ケアを含む)を行う必要ある。
③算定可能な期間:算定可能な期間は「初回算定日から1年間を限度」とされている。1年たった後、どのようになるかは現在不明である。
【算定可能な栄養材】
投与時間の短縮が可能な形状にあらかじめ調整された以下の半固形状のものが該当する。
①薬価基準に収載されている高カロリー薬。
②薬価基準に収載されていない流動食(市販されているものに限る。また患者が入院中に、退院時の当該指導管理を行う必要がある)。
胃ろうから体内に投与後、胃液等により液体状から半固形状に変化する栄養剤や、市販時に液体状の栄養剤等を半固形化させるものを加え半固形状に粘度調整した栄養剤や、ミキサー食は算定の対象外である。また、市販の流動食の場合は入院中に在宅半固形栄養経管栄養法の指導をしていないと算定ができない。

4.1.2 在宅成分栄養経管栄養法用栄養管セット加算

在宅成分栄養経管栄養法を行っている入院中以外の患者(施設・在宅含む)で、栄養管セットを使用した場合に月に1回2,000点が請求できる加算である。通常、胃瘻からの投与では栄養管セットやイルリガートルを使用するが、この点数は成分栄養等の栄養剤を使っている患者にしか請求できないことに注意が必要である。

4.1.3 注入ポンプ加算

在宅成分栄養経管栄養法を行うに当たって、経腸栄養用ポンプを使用する患者に対して月に1回1,250点を請求できる。この加算を請求するには、成分栄養等の薬剤の投与が必須であり、成分栄養等の薬剤を使っていない患者では請求できない。

従って、腸瘻の患者や小児の患者などで、ポンプを使いたい在宅患者の場合、原疾患の如何にかかわらず、入院中に使用していた栄養剤から成分栄養等の薬剤へ変更して在宅へ移行する必要がある。

4.1.4 在宅寝たきり患者処置指導管理料

在宅医療で請求できる患者に対する管理料の一つで、月に1,050点が請求できる。在宅患者の関わるさまざまな処置に関して請求できるもので、寝たきり状態かそれに準ずる患者に対して請求できるものである。内容には、創傷・褥瘡の処置、導尿や膀胱留置カテーテル、喀痰吸引などが含まれ、通常の経管栄養に関わる費用もこれに含まれる。つまり、経鼻胃管・胃瘻に関わらず、在宅寝たきり患者処置指導管理料に含まれることになり、栄養用ディスポーザブルカテーテル(経鼻胃管チューブなど)を除いたイルリガートルや接続チューブなどの物品の費用も含まれる。こうした経管栄養に関わる物品は患者の自費負担ではなく、医療機関から支給するものとされているため、経管栄養以外の褥瘡処置などのさまざまな処置と勘案しながら、1,050点/月の範囲内で収まるように物品の提供を行うことになる。

つまり、半消化態栄養剤(ラコール®、エンシュア・リキッド®など)や濃厚流動食などでは在宅寝たきり患者処置指導管理料を請求することとなり、栄養管セット加算(2,000点)やポンプ加算(1,250点)などの請求はできないため、経管栄養に関わる物品の支給はかなり限定したものとならざるを得ない。一方、在宅成分栄養経管栄養法指導管理料を請求する場合は、こうした経管栄養に関わる物品だけで2,000点/月であり、かなり余裕をもって支給することができる。

4.2 患者負担と栄養剤

入院中に経腸栄養剤を使用する場合は、「給食費」の範囲で濃厚流動食を使うことが一般的である。これは給食では食品に分類される栄養剤である必要があるためであるが、通常、病院や施設では大量購入するため大幅な値引きがされているであろう。しかし、退院して自宅で購入する場合は、定価かわずかな値引きしかない場合が多い。このため、栄養剤だけで月に3~4万円くらいかかることになってしまう。濃厚流動食は「食品」という分類であり全額患者負担になってしまうため、経済的負担が大きく、一般の高齢者の食費を考え合わせると、濃厚流動食は非常に高いと言わざるを得ない。

一方、薬剤は一般に3割負担であり、患者負担が大幅に軽減される。経済的負担が少ないとは言えないが、許容できる範囲であると言えよう。こうしたことから、在宅では「薬品」の栄養剤を使うことが多くなる。先に述べたように、在宅成分栄養経管栄養法指導管理料を算定する場合は、さらに成分栄養剤か消化態栄養剤を使うことになる。

このように、在宅医療の制度上、投与する薬剤によって患者負担が大きく変わるため、配慮が必要である。

4.3 経腸栄養ポンプを使うとき

在宅で経腸栄養ポンプを使用したい患者では、成分栄養等の薬剤への変更が必須である。しかし、中にはどうしても栄養剤を変更したくないが、経腸栄養ポンプの必要があるといった患者もいる。

自験例であるが、重度肝機能障害の小児で、経腸瘻的にラコール®投与を行っていたが、この児は栄養投与量・速度の変化に肝機能が強く反応し悪化するため慎重な投与が必要であり、他の栄養剤への変更のリスクが高いと考え、ラコール®のまま在宅移行することを考えた。この児では、在宅でもポンプの使用が必須と考えられたが、ラコール®を使っているこの児のポンプ加算の請求は制度上不可能であった。このため、医局でポンプを購入し、無償貸与するという形を取らざるを得なかった。

このように、ポンプを使う患者を在宅に移行する場合は、成分栄養等の薬剤へ変更して在宅へ移行するか、どうしても変更ができない場合は医療機関の持ち出しとならざるを得ない。患者から見るとこうした制度は理解しにくいため、ポンプを使えないだけで、「医療レベルが下がる」といった印象を与え、結果として在宅医療支援診療所と患者の信頼関係の構築が難しくなったりすることにもなりかねない。こうした制度上の問題を理解しつつ、在宅への移行を進めていく必要がある。

5.介護者と在宅経管栄養

図1に示したように、在宅医療に関わるメンバーは、病院内での医療とは大きく異なる。また、いつも同じ「場」で介護されているわけではなく、デイケア(日中だけ介護する施設)やショートステイ(数日間泊まりで介護してくれる施設)というようなレスパイトケアを使用する患者が多い。子どもであれば特別支援学校などの教育機関や学童保育(放課後の児童預かり)に行くこともある。また、介護者が高齢者である「老老介護」や、在宅ヘルパーが入っているなど、いろいろなケースがある。このように、患者の介護を「どこで」「だれが」行っているかを念頭に置き、こうした「介護者の特性」にも配慮が必要である。

5.1 非医療職による介護の特性

通常、狭義の在宅である自宅での介護は、主たる介護者は家族であることが多い。在宅移行に当たって介護者に経管栄養を含む患者のケアを指導することになる。患者によって、ほとんどを主たる介護者が担っている場合や、数人で分担している場合や、必要に応じてヘルパーを利用していることもある。こうした「非医療職」は医学的知識に乏しいだけでなく、理解力に大きな差があることが多い。「患者指導マニュアル」のようなものを作成し指導している病院をよく見ることがあるが、画一的な指導では介護者の多様性に対応できないことがある。90才の夫を88才の妻が介護するというようなケースと、60代の夫を50代の妻が介護するケース、さらに10代の子どもを30代の母が介護するケースでは理解力も体力も大きく違ってくる。年齢だけでなく、熱意、介護者の基礎学力などによっても大きな差があり、こうした個人差への配慮が必須である。

また、患者によって利用するサービスに違いがあり、そこで担当するスタッフへも指導が必要となる。一般に、施設や学校などのスタッフは、病院に来てもらい指導することが困難なため、主たる介護者を経由して指導することになり、簡便な指導書やわからない時の窓口などが必要であろう。また、地域にこうしたニーズがあることを理解し、定期的に「講演会」や「勉強会」を開いていくことも求められている。なお、平成24年4月から、介護福祉士法等の改正に伴い、医療的ケアが一定の条件下で非医療職も行う事が出来るようになる予定であり、こうした動向にも留意する必要がある。

5.2 在宅での器具の管理

経腸栄養に関わる器具は基本的に病院と在宅で変わりはない。先に述べたように、注入ポンプの使用にはコスト上の制限があるものの、注入ポンプや栄養管セット、イルリガートルなどの物品は同じものである。しかし、物品の管理では大きな違いがある。

病院では多くの患者がおり、院内感染を防ぐことが非常に重要である。一方、自宅では介護される患者は通常1人であり、あまり水平感染を意識する必要がない。そのため病院で行うような滅菌を強く意識した手技は必須ではなく、通常の衛生管理の範囲でよいであろう。つまり、イルリガートルのような物品は食器と同様にきれいに洗い乾燥させる、栄養管セットなどは十分に通水し、次亜塩素酸ナトリウム液など(ミルトン®など)の家庭用の消毒液に浸漬しておき、汚れが着かないうちに交換する。なお、栄養管セットなどの交換は1ヵ月に使用可能な物品量を医療機関と相談して決めるとよい。

また、介護者は慣れるに連れて必要な処置を省いていくようなこともありうる。つまり、病院で行っている衛生管理を盲目的に自宅に持ち帰らせるだけでは、その煩雑さから手を抜き始めることが少なくない。従って、自宅での一人の在宅患者を介護することを念頭に置いた、過不足ない指導が求められるとともに、定期的に適切な処置を行っているかなどの手技のチェックも行っていく必要がある。

6.まとめ

このように、在宅医療の中で行う経管栄養は、病院内で行う経管栄養とくらべ、行っている行為は同じでも、制度上の違いがある。また、在宅では医療者でない家族などの介護者が関わることが多いため、こうした点にも配慮が必要である。

一方で、現在、介護福祉士への医療的ケアの解放という方向性が進められており、たんの吸引とともに経管栄養についても、その法的な整備が行われるとともに、研修の在り方などが議論されている。今後、さらに広い職種が在宅経管栄養に関わってくることが予想されるため、医療者は個々の患者さんのニーズ、介護環境の変化に合わせたきめ細かい指導を心がける必要があるであろう。

文献

  1. 吉野浩之、吉野真弓、水田耕一、河原﨑秀雄、太田秀樹: 経腸栄養―在宅医療職が知っておきたいこと 訪問看護と介護  11(11), 994-1003, 2006
  2. 吉野浩之: 小児の栄養  Run&Up, 2(3): 2-5, 2006
  3. 吉野浩之、吉野真弓、田中裕次郎、水田耕一、河原﨑秀雄、太田秀樹: 小児在宅医療制度の現状  小児外科 38(9), 1086-1092, 2006
  4. 吉野浩之: 小児在宅医療における医療的管理の実際  日本在宅医学会誌  8(2),232-6, 2007

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