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Chapter3 静脈栄養
2.中心静脈栄養法(TPN)
2.13 TPNの実際の投与方法と管理


社会医療法人若草第一病院外科 山中英治

山中英治
記事公開日 2012年7月19日

1.中心静脈栄養法(TPN)と適応

中心静脈栄養法は確実に高カロリーが投与できる非常に有用な栄養法である。しかし、血管内にカテーテルを留置していることと、投与された物質が瞬時に全身に回ることから、経腸栄養法と比べてハイリスクである。

ゆえに適応がありかつ安全に施行できて、メリットがデメリットを上回るケースに、もちろん本人(意思表示不可能な状態では家族)の同意を得て行う必要がある。

かつては適応外のケースにも安易に施行されることも多かったが、近年は腸を使うこととくに経口摂取の大切さと、中心静脈カテーテル留置のリスクが再認識されるようになって、適応を厳密にするようになってきた(表1)。

表1 中心静脈栄養法(TPN)

・非常に有用で効果的な完全な栄養法(TPN)

・中心静脈カテーテル(CVC)から輸液(高カロリー輸液が可能)

・穿刺キット、製剤の改良で、益々簡便に

・適応外患者にも利用される傾向にあった

・敗血症、気胸、胸腔内輸液、カテーテル断裂

  → 関連する合併症や事故

・適応外使用による事故は避けなければならない

Advice

腸が使える(消化吸収ができる)なら腸を使う(経腸栄養)。

2週間以内の絶食は末梢静脈栄養。

2週間以上腸が使えなければ中心静脈栄養の適応(表2)

表2 TPNの適応

・2週間以上腸管が使えない(ENができない)
 短腸症候群、腸閉塞、縫合不全、重症腸疾患など

・経腸栄養(EN)が苦痛でできない

・ENの投与経路が確保できない

・ENやPPNでは栄養が不足する

・患者の希望

中心静脈カテーテル(CVC)を留置して静脈栄養を行うメリット(表3)として、直接太い静脈内に入るので、吸収が必要な経腸栄養よりも確実に投与できることや、下痢などの副作用症状が無いこと等があげられる。

表3 中心静脈カテーテルのメリット
  • 確実に完全静脈栄養ができる ・消化管の消化吸収機能に左右されない
  • 消化管の安静が保てる
  • 下痢、腹痛、腹満などの消化器愁訴がない
  • 血管痛がない、漏れない、手が痛くない
  • 確実な静脈ルート、CVP測定可能
Pitfall

経腸栄養の副作用症状が強い場合は、無理に経腸栄養にこだわる必要はない。いくら経腸栄養の方が生理的であっても、患者さんに苦痛を強いるようでは意味が無い。

2.中心静脈カテーテル(CVC)の留置

中心静脈カテーテルの製品には、用途によっていくつかの種類がある(表4)。通常は鎖骨下静脈や内頚静脈から挿入することが多いが、最近では穿刺の際の合併症が少ない末梢挿入式中心静脈カテーテル(PICC)も普及してきている。

表4 中心静脈栄養カテーテル
  • 通常の中心静脈カテーテル
      (シングルルーメン~トリプルルーメン)
      (スルーカット式、セルジンガー式)
  • 長期留置用中心静脈カテーテル
      ブロビアックカテーテル(ダクロンカフ付)
      ヒックマンカテーテル(同上ダブルルーメン)
      皮下埋め込み式ポート
  • PICC(末梢挿入式中心静脈カテーテル)

長期間留置する場合は、抜けにくい、破損しにくいなどの理由からダクロンカフを皮下に埋め込むブロビアックカテーテルや、使わないときはカテーテルフリーになる皮下埋め込み式ポートが用いられる。最近は進行大腸がんの術後化学療法のためにポートが留置されることが多くなり、このポートがTPNにも利用できる。

カテーテルの挿入部位については各々に利点と欠点がある(表5)。

表5 CVC挿入部位と利点、欠点
  • 鎖骨下静脈:患者は快適、気胸のリスク
  • 内頚静脈:挿入簡単、首なので少し不快
  • 大腿静脈:挿入簡単、感染と血栓リスク
  • PICC:最も安全、挿入経路が長い
       最近はエコーガイド下の挿入もあり
Point:

鎖骨下静脈経路が最も多く用いられるが、いずれの経路にしろ、穿刺にはコツがあるので、熟練した医師が挿入または指導するべきである。

CVC留置で最も問題となる合併症は、穿刺時のトラブルと感染である。誤って肺を刺してしまうことによる気胸や、動脈穿刺による血腫以外にも、カテーテルの誤挿入のトラブルもある。血管内に入っていることの確認のために血液の逆流を確認し、カテーテルの位置と気胸の有無を確認するために胸部レントゲン写真を撮る(表6)。

表6 CVC挿入時の留意事項
  • ルーメンは必要最小限(感染予防)
  • 鎖骨下静脈経路が第一選択
  • 高度バリアプレコーションで挿入
  • 挿入部をヒビテンやイソジンで広く消毒
  • 挿入後に静脈血の逆流を確認する
  • 挿入後にレントゲンで先端位置を確認する

穿刺の際に清潔操作をすることが感染防止に重要であるため「高度(マキシマム)バリアプレコーション」すなわち、滅菌手袋、滅菌ガウン、マスク、帽子、広い清潔覆い布を用いて挿入する。

3.TPNの量と内容

TPNは絶食で経腸栄養も無理な場合に行われることが多いので、TPN単独の場合にTPNから必要十分量の水分、電解質、栄養素を投与しなければ、長期間になると栄養不良になる。

水分量は成人では少なくとも900ml/日は必要である。エネルギーは最も必要量が少ない寝たきりの高齢者であっても1000kcal/日程度は必要である(表7)。 エネルギーは主にブドウ糖で投与し、これに適切なカロリー/N比のアミノ酸、脂肪、必要量の電解質、ビタミン、微量元素などを含めて投与する。

術後などでドレーンやチューブ類からの体液の排液が多い場合は、排液の量を細胞外液補充液(乳酸加リンゲル液など)で追加補充する。発熱や発汗が多い時も水分不足に注意する。

表7 必要エネルギー量は?
  • 通常安静時:25~30kcal/kg/日
  • 年齢:高齢者は必要エネルギー少ない
  • 意識レベル:脳はエネルギー必要
  • ADL:動かないと筋肉が落ちる
  • 感染症:エネルギー必要量増加
  • 悪液質:末期癌では代謝異常で身に付かない
Advice:

現在市販されているTPN用基本液にはたいていの必要なものは入っている(表8)。腎不全などとくに気をつけねばならない病態でなければ、調剤するよりも市販製剤をそのまま使う方が感染の機会や間違いが少ないという点では安全である。

表8 TPN用基本液
  • 1号開始液、 2号・3号維持液
  • たいていの必要なものは入っている(水、電解質、糖、アミノ酸、ビタミン、亜鉛)
  • エルネオパは微量元素も配合
  • ミキシッドは脂肪も入っている

4.TPN施行時の注意点

TPNは安全かつ有効に行われなければならない。安全に行うには合併症を起こさないことが大事であり、予防に優る対策は無い。施行中の合併症で頻度が高いのはカテーテル関連血流感染症CRBSI (Catheter-related bloodstream infection)である。他にも高カロリー輸液にまつわる代謝上の合併症も発生し得る。

Pitfall

いかに清潔に注意していても、CRBSIを完全に予防することはできないであろう。血管内にカテーテルが入っている限りは、ルートから感染すれば敗血症になるリスクがある。ゆえに最も確実な感染予防策は不要な血管内カテーテルを入れないことと不要になれば早く抜くことである。

感染経路としては輸液剤、チューブ、ハブ、刺入部などが考えられる。輸液剤の感染を防ぐには、必要の無い(科学的根拠の無い)薬剤の混注を行わないことが重要である。ハブからの感染を防ぐには同じく不要な側注をしないこと、三方活栓を用いずクローズドシステムとすることである。

Point:

看護師による毎日の観察は合併症予防の一番のポイントである(表9)。カテーテル敗血症は他にたいした症状を伴わない急な発熱が特徴的である。また刺入部の観察も重要で皮膚の発赤・腫脹などの感染徴候に注意する。同時にカテーテルの目盛も見て抜けてきていないかもチェックする。

表9 毎日の観察が一番大事
  • 体重:週に1回は
  • 尿量:毎日
  • 尿糖:週に1回は
  • 採血:1~2週に1回
  • 血糖:とくに耐糖能異常患者
  • CVC刺入部観察:毎日(by 看護師)

近年はⅡ型糖尿病患者が増えており、糖尿病患者への高カロリー投与は高血糖に注意を要し、尿糖のチェックも大事である。体重の増減は栄養状態の評価以外に浮腫や腹水の増減などでも変化するので、輸液量の過多・過少のチェックにも有用な指標となる。

5.TPNの合併症と対策忌

CRBSIでは敗血症性ショックになる危険があるので、他に原因の考えにくい高熱が出れば躊躇せずにカテーテルを抜去する(表10)。原因菌としてはブドウ球菌も多いがTPNでは真菌も多く、真菌によるCRBSIは真菌性眼内炎の危険も伴うので眼科受診もする。 

表10 カテーテル敗血症
  • 血管内にカテーテルがあれば発生し得る
      →不要になれば早くカテーテルを抜く
      →腸が使えるなら経口or経腸栄養
  • 急に高熱が出る(spike fever)
      高熱以外に症状が無い(意外に元気)
  • 培養ではカンジダ(真菌)、CNS(coagulase-negative staphylococci)、MRSAが多い
      →真菌性眼内炎に注意
Advice:

TPN施行マニュアル(穿刺・管理)を整備すると同時に、合併症対策マニュアルや、術後管理のクリニカルパスを用いて、標準的かつ科学的なTPNを施行することで安全対策が向上する。

静脈から栄養を投与することは非生理的であることなどから、TPNでは種々の代謝上の合併症が発生し得る(表11)。

表11 TPNの代謝に関する合併症
  • 高血糖,高浸透圧性非ケトン性昏睡
  • 低血糖(インスリン併用時)
  • 電解質異常、微量元素欠乏、脂肪酸欠乏
  • ビタミン欠乏(とくにチアミン欠乏)
  • 肝機能異常(投与カロリー過剰)
  • 胆汁うっ滞(長期絶食)、脂肪肝
  • Refeeding Syndrome
Pitfall:

栄養不良や欠乏症に眼が行きがちであるが、高カロリー負荷による合併症にも注意を要する。とくに身体が低栄養状態に順応している場合に急激に高カロリーを負荷すると危険な合併症が起こることがある。

Refeeding Syndrome (表12)は飢餓に近い状態が続いた時に、救急搬送された場合など、急に糖を投与すると糖からエネルギーのATPを合成するために、Pを消費する。体内のPも不足している状態にさらにPが使われると低P血症による意識障害を起こす。さらにエネルギー不足状態に順応しているので糖が急に入ると高血糖になることがある。ビタミンB1も不足しているので糖負荷でチアミン欠乏による乳酸アシドーシスを来すこともある。ゆえに飢餓状態への輸液は徐々にカロリーをアップし、同時に必要なビタミンや電解質も投与する。 

表12 Refeeding Syndrome
  • 長期飢餓状態に急に高カロリー投与は危険
  • 飢餓状態に身体が順応しているので
  • 急に糖を負荷→高血糖、のち低血糖にもなる
  • 糖供給→ATPを作るためにPを急消費
  • 低リン血症→意識障害
  • ビタミンB1欠乏→乳酸アシドーシス→意識障害

∴徐々にカロリーアップ、同時に P、 Vit.B1も補給

Point

高度侵襲や重症感染症ではストレスホルモンなどの影響もあって高血糖になりやすいので注意を要する(表13)。高血糖の際にインスリンを併用するが侵襲を離脱すると血糖が下がってくるので、低血糖にならないようにインスリンの投与量を調節する。

表13 高血糖
  • 最近は糖尿病が増加しているので注意
  • 急に高カロリーを投与しないこと
  • 侵襲時、感染症では高血糖になりやすい
  • 高血糖では糖尿病性昏睡の危険性あり
  • 血糖をチェックしながらインスリン併用する
  • 輸液が急速に滴下しないように注意する
  • Refeeding 症候群は、高血糖、低P血症

普段の食事では三大栄養素の糖質、たんぱく質、脂質をバランス良く摂取しているので、TPNでも投与されることが理想的である。日本人は欧米人に比べて脂質の代謝速度が遅いので投与速度に注意する(表14)。

表14 脂質
  • 1gが9kcalと高カロリー
  • 細胞膜成分、ホルモンの材料
  • 必須脂肪酸は体内で合成できない
  • 総投与カロリーの20%程度は脂質が望ましい
  • 日本人は欧米人に較べて代謝能力が低い
  • 脂肪乳剤はゆっくり投与しないと代謝されない
    (0.1g/kg/hr:体重50kgなら20%脂肪乳剤100mlを4時間以上かける)
Pitfall:

グルコースの過剰投与でも脂肪肝を来すが、脂肪の欠乏でも脂肪肝になるので、長期のTPNでは脂肪も投与する必要がある(表15)

表15 TPN時の脂質代謝障害
  • グルコース過剰投与→脂肪肝(脂肪乳剤併用で脂肪肝発生抑制)
  • 脂肪の長期欠乏→脂肪合成↑で脂肪肝
  • 必須脂肪酸欠乏→皮膚乾燥、脂肪肝

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