HOME > PDNレクチャー > Ch.3 静脈栄養 > 2.1 TPN の特徴と適応

Chapter3 静脈栄養
2.中心静脈栄養法(TPN)

2.1 TPN の特徴と適応


帝京大学医学部外科 福島亮治

福島亮治
記事公開日 2012年7月19日

1.TPNの定義と呼称

TPNは、total parenteral nutritionの略であり、日本語にすると通常、完全静脈栄養と訳されている。読んで字の如く、完全な栄養を静脈的に行う手法である。すなわち、栄養の基本と言うべき腸管を全く使用しないで、生命活動や成長に必要な5大栄養素(炭水化物、蛋白、アミノ酸、脂質、ミネラル、ビタミン)すべてを静脈から供給することを指す。

TPNという用語は、その開発者として有名なDudrickが、1968年の論文のタイトルで用いている1)。一方、TPN開発のもう一人の立役者で、安全な脂肪乳剤の開発者として知られるWretlindは、complete parenteral nutritionと呼んでいる2)。またparenteral alimentation、intravenous nutrition、intravenous feedingなどの呼称もこれまで用いられてきている。日本語では、前述の完全静脈栄養のほか、中心静脈栄養、高カロリー輸液などとも呼ばれている。

我が国の臨床の場でしばしば耳にする IVHは、intravenous hyperalimentationの略語であり、これは1970年のDudrickらの論文で使用されている3)。hyperは過剰を示唆する用語であり、Dudrickらは侵襲時には意図して通常の必要量より多く投与するという意味合でhyperalimentationという言葉を使用したようである。近年、種々のガイドラインでも、推奨栄養投与量は以前よりも低く設定されることが多く、過剰投与は過少投与よりも有害であるとの認識も浸透してきている。文字通り“過剰”を意味するhyperalimentationという用語は一般的に使用すべきではなく、現在はTPNという呼称を使用することが望ましいと考えられている。事実、IVH と言う用語は世界的に使用されておらず、pubmedを検索しても、1990年以降intravenous hyperalimentationがタイトルに含まれる論文はそのほとんどが日本人のものである。我が国では、依然として“IVH”は比較的広く用いられている上に、中心静脈カテーテルを挿入することを“IVHを入れる”などと明らかな誤用表現がなされることも少なくない。正確な用語を用いるべく、指導的立場にある者は特に注意する必要がある。

TPNに対して末梢から行う静脈栄養はPPNと呼ばれ、特に我が国ではTPNの対局に位置づけられ区別されている。しかし、厳密には末梢からでもcomplete parenteral nutritionが不可能というわけではなく、Wretlindらの脂肪を中心とした処方はもともとこれを 念頭に開発されたものである。逆に中心静脈から補助的な静脈栄養を行うこともあるので、TPNに対してpartial parenteral nutritionということでPPN、投与部位の対比としてはperipheralに対してcentral parenteral nutritionとした方が厳密かもしれない。現在の海外のガイドラインでは、いわゆるTPN、PPNは一括して静脈栄養(PN:parenteral nutrition)として扱われ、PPNとTPNは厳密に区別されていない。

2.輸液とTPNの歴史

輸液の起源は、17世紀になって、William Harveyが「血液の循環の原理」(1628年)を発表したことが端緒とされるが、最初の輸液はイギリスの生理学者、天文学者、またSt Paul大聖堂の建築に関わった建築家でもあるSir Christopher Wrenが1658年にガチョウの羽と豚の膀胱を用いてワインやaleをイヌの血管内に投与したのが始まりとされている。電解質輸液は、1832年にイギリスのLattaが、塩化ナトリウム0.5%と炭酸水素ナトリウム0.2%を含む製剤をコレラの治療に投与したのが始まりで、その後、1883年にRingerが塩化ナトリウムの他にカルシウムやカリウムを配合したリンゲル液を開発した。

栄養輸液に関しては、1911年にKaushが栄養目的のブドウ糖静脈内投与を行ない、1930年代にはブドウ糖の輸液が普及していった。しかし、TPNが完遂できるためには、不純物のない組成が一定したアミノ酸液や安全に投与できる脂肪製剤が必須であった。当初はタンパク質を酵素で加水分解したアミノ酸液を使用していたが、ペプチドが含まれることやアミノ酸組成が一定しないことなど問題点が多かった。しかし、1950年ころから、個々の結晶アミノ酸の精製が可能となり、本格的な栄養輸液の検討が行なわれ、種々のアミノ酸輸液製剤の開発がなされていった。1965年には、スウェーデンのWretlindらによってダイズ油を用いた脂肪乳剤が開発され、こうして1960年代後半には、3大栄養素の輸液製剤がそろうこととなり、完全静脈栄養を行う環境が整っていった。

完全静脈栄養で十分なエネルギーを投与するためには、高濃度糖液の静脈内投与が必要である。例えば1,600kcalをブドウ糖で投与するためには20%液2,000mlを要する。しかし、20%ブドウ糖液は浸透圧が高く(5%が等張)静脈炎が起るために末梢静脈から投与できなかった。Dudrickらは高濃度の糖やアミノ酸液を、中心静脈から投与することでこの問題を解決した。そして1967年、静脈栄養のみでビーグル犬の仔犬6頭を72~256日飼育し、正常に発育することを証明した。彼らはこの経験をもとに、高度の栄養障害を有し、消化管に問題がある消化器外科患者6症例に対して、外頚静脈から挿入したカテーテルを用いて、静脈栄養のみで15~48日間管理した。この時の処方は、20%デキストロース、5%のフィブリン水解物、電解質、ビタミン、微量ミネラルであったとされる(表1)。さらに、1967年の6月には、near-total small bowel atresiaの新生児に対して95%以上の小腸切除を行い、十二指腸と3cm残存した回腸とを吻合し、中心静脈から完全静脈栄養を22ヵ月間行い、最終的には死亡したものの、体重を4ポンドから18.5ポンドに成長させることに成功した。しかしこの間、頸静脈から6回、伏在静脈から1回、橈側皮静脈1回、鎖骨下静脈から8回のカテーテル挿入を要したとのことであり、静脈経路確保の難しさを物語っている。

表1 Dudrick と Wretlindの処方
  Derrick Wretlind

Daily dose (L)

2.4 - 4.5 2.3

Energy (kcal/L)

1000 924

Amino Acids (g/L)

37.5 30

Glucose (g/L)

212 98*

Fat (g/L)

- 49**

Energy (kcal/day)

2000 - 4000 2125
* Glucose + Fructose + 10.8 g Glycerol
** 2.6 g of phsphatide

ほぼ時を同じくしてWretlindらは、それまで副作用が多かった脂肪乳剤に対して、ダイズ油と卵黄レシチンを乳化剤とした安全な製剤、Intralipidを開発した(1965年)。これは、BEEのエネルギー量全てを長期間脂肪で投与することを目標に開発がすすめられたもので、犬を用いて28日間にわたり、BEEに相当する9g/kg/dayを投与することに成功した。Wretlindらは、これをもとに、エネルギーの約50%を脂肪で投与する静脈栄養のシステムを開発し(表1)、1968~69年にわたり7ヵ月以上、女性患者を静脈栄養だけで管理することができた。

このように、米国DudrickらのTPNは非蛋白カロリーをすべてブドウ糖で投与するものでGlucose system(開発当時米国では脂肪乳剤がFDAによって許可されていなかった)、これに対して脂肪中心に投与するスウェーデンWretlindらのものをlipid systemといわれた2, 4)

3.TPNの特徴

炭水化物、蛋白、脂肪、ミネラル、ビタミンという生存に必要な五大栄養素すべてを経静脈的に供給する。全く経口摂取や経腸栄養ができなくても長期間の生存や成長が可能である。炭水化物は主にブドウ糖液、蛋白はアミノ酸液、脂肪は脂肪乳剤というかたちで投与される。今やこの方法を用いることで、全く経口摂取ができなくとも長期生存が可能であり、さらに妊娠や出産を経験する者もいる。1日の水分投与量が過剰にならずに必要量を満たす為には、高濃度の糖やアミノ酸を静脈内に投与することが要求されるが、高濃度の糖液やアミノ酸液は浸透圧が高く、末梢静脈から投与すると痛みや静脈炎を惹起するため、血液の流量が多く投与された溶液がすぐに希釈される中心静脈から通常投与する。

Wretlindらの脂肪を多用する処方は(NPCの約50%を脂肪で投与)、開発の歴史的背景からヨーロッパで広く用いられており、末梢からの投与でも比較的高いカロリーを投与することが可能ではある。しかし、長期的には静脈炎の発症は避けられない。安定的な静脈経路確保という面も含めて、長期には中心静脈からの投与が行なわれる。近年末梢から中心静脈にカテーテルを挿入するPICCが、簡便で合併症が少ないカテーテルとして注目され、我が国でもその使用頻度が増している。

4.適応

栄養管理は、“If the gut works, use it.”と言われているように、消化管を使用して行うことが大原則である。しかし、さまざまな状況下で消化管が使用できない(使用すべきでない)、あるいは使用できても不十分な場合があり、このような場合に静脈栄養が適応となる。適応は短腸症候群の急性期や消化管閉塞(イレウス)などにおける絶対的適応と、経腸栄養は可能でも十分量を満たせない相対的、補完的適応があり、後者では末梢ルート(PPN)が選択される場合もある(図1)(表2)。

図1 栄養管理のルートの選択
図1 栄養管理のルートの選択
表2 TPNの適応

絶対的適応

  • 消化管が機能していな場合(重度の腸管麻痺や吸収障害など)
  • 消化管の使用が不可能あるいはすべきでない場合
  • 難治性の下痢や嘔吐
  • High outputの消化管瘻(肛門側からの経腸栄養ができない場合)
  • 消化管閉塞
  • 短腸症候群
  • 腸管の安静を要する場合(高度の炎症など)

相対的適応

経口・経腸栄養で十分量を投与できない場合

投与量が少ない場合や期間短い場合はPPNも考慮

  • 外科周術期
  • 消化管出血
  • 抗癌薬使用や放射線照射時
  • 重症感染症
  • 急性膵炎(原則経腸栄養が望ましい)
  • その他の重症患者
  • 経腸栄養不耐症

消化管閉塞や消化管手術後の縫合不全、消化管瘻などは静脈栄養の絶対的適応となることも多いが、食道狭窄や幽門狭窄があっても狭窄部を越えて栄養チューブが挿入可能な場合、あるいは縫合不全や消化管瘻でもそれより肛門側の腸管に栄養が投与できる場合は、経腸栄養がよい適応となることがあるので十分に検討する。また、これまで静脈栄養が望ましいと考えられていた(重症)急性膵炎でも、最近のエビデンスに基づくと、経腸栄養の選択が推奨されている。一方、経腸栄養がある程度可能でも十分な量が投与できない期間が一定以上つづく場合、躊躇なく静脈栄養を開始して十分な栄養投与を行うべきである。

ASPEN、ESPENなどの各種栄養ガイドラインでは、栄養管理の必要性、その期間、腸管の使用可否によって具体的な栄養管理法の選択が記されているが、各ガイドラインで適応がそれぞれ多少に異なっている。最近話題となっているのは、高度な栄養障害がないICU入室患者において、経腸栄養で十分量の栄養が投与できない場合、いつから経静脈栄養を開始するかについて、ESPEN(European Society for Surgical Metabolism and Nutrition)とASPEN (American Society for Parenteraland Enteral nutrition)・SCCM(Society of Critical Care Medicine) のガイドラインの見解が異なることである5, 6)。前者は48時間以降の早期からの補完的静脈栄養(supplemental PN)を推奨しているのに対して、後者は、7~10日間は静脈栄養を行なわない方がよいとしている。2011年に発表されたCasaerらの論文では、BMIが17以上のICU 患者を対象とし、supplemental PNを3日目からと8日目から行う群を比較しているが、後者で感染性合併症が少なくなるなど良好な結果が得られたと報告されている。

5.TPNの非適応・禁忌

消化管機能が保たれている場合は、経腸栄養を原則としTPNは適応すべきでなく、禁忌といってもよい。後述するがTPNは生体防御の面で不利に働き、経腸栄養に比べて感染性合併症が多くなることが報告されている。例えば脳出血や脳梗塞、筋萎縮性側索硬化症などの神経・脳疾患による経口摂取障害などはTPNを行うべきでない疾患の代表である。また周術期において栄養状態が良好な場合のTPN、短期投与、術後のルーチンのTPNは術後合併症をむしろ増加させるとの報告がある。

6.TPNの長所と短所

TPNの長所としては、当然のことながら、消化管に頼らず十分な栄養投与が可能であることが第一に挙げられる。また、投与エネルギーや栄養成分を正確・確実に投与することができ、水分の出納も厳密に管理することができる。また、中心静脈ラインが確保されているので、重症例への薬剤投与をはじめとした緊急時対応が容易であるという側面もある。

一方、気胸に代表されるカテーテル挿入時の種々の合併症や、カテーテル感染、血栓形成など、カテーテルに関連する合併症が少なくないこと、高血糖をきたしやすいこと、長期的には脂肪肝などの代謝性合併症が起こりやすいこと、コストが高いことなどは短所である。また、腸管は消化吸収以外にも管内の細菌や毒素が体内へ侵入する(bacterialtranslocation)を防ぐバリアー臓器としての役割があり、さらに腸管が体内で最大級の免疫組織であることも忘れてはならず、このような腸管を使用しない静脈栄養を続けると、生体防御に不利に作用することが様々な研究で明らかにされている。すなわち、同じ栄養素を投与しても、投与経路の違いで生体防御能に差が生じることが知られており、静脈栄養と経腸栄養を比較した多くの臨床研究で、前者で合併症、特に肺炎や腹腔内膿瘍などの感染性合併症が有意に多いことが明らかとなっている7)

7.おわりに

TPNは優れた栄養法であり、適応を良く見きわめた上で十分に活用して行く必要がある。

文献

  1. Dudrick SJ, Wilmore DW, Vars HM, Rhoads JE: Long-term total parenteral nutrition with growth, development, and positive nitrogen balance. Surgery 1968, 64:134-142.
  2. Wretlind A: Parenteral nutrition. The Surgical clinics of North America 1978, 58:1055-1070.
  3. Dudrick SJ: Intravenous hyperalimentation. Surgery 1970, 68:726-727.
  4. Dudrick SJ, Palesty JA: Historical highlights of the development of total parenteral nutrition. The Surgical clinics of North America 2011, 91:693-717.
  5. Kreymann KG, Berger MM, Deutz NE, Hiesmayr M, Jolliet P, Kazandjiev G, Nitenberg G, van den Berghe G, Wernerman J, Ebner C, et al: ESPEN Guidelines on Enteral Nutrition: Intensive care. Clinical nutrition 2006, 25:210-223.
  6. McClave SA, Martindale RG, Vanek VW, McCarthy M, Roberts P, Taylor B, Ochoa JB, Napolitano L, Cresci G: Guidelines for the Provision and Assessment of Nutrition Support Therapy in the Adult Critically Ill Patient: Society of Critical Care Medicine (SCCM) and American Society for Parenteral and Enteral Nutrition (A.S.P.E.N.). JPEN Journal of parenteral and enteral nutrition 2009, 33:277-316.
  7. 福島亮治: 生体における腸管免疫の重要性. 臨床外科 2009, 64:1333-1338.

▲ページの最初へ戻る

あなたは医療関係者ですか?
この先のサイトで提供している情報は、医療関係者を対象としています。
一般の方や患者さんへの情報提供を目的としたものではありませんので、ご了承下さい。
いいえ
はい