HOME > PDN通信 > 胃瘻栄養で半固形化栄養材を使いこなす! > 第2回 半固形化経腸栄養剤を知ろう!使いこなそう!
シリーズ 胃瘻栄養で半固形化栄養材を使いこなす!

第2回 半固形化経腸栄養剤を知ろう!使いこなそう!

PDN通信 31号 (2010年4月発行) より
栗山とよ子
福井県立病院内科医長・NSTチェアマン
栗山とよ子

人にとって自然な食形態

経口摂取に近い状態の半固形化栄養剤

半固形栄養剤は、1998年の発売以来、栄養剤メーカー各社より様々な粘性や物性あるいは栄養学的な特徴を持つ製品が開発され、現時点では10種類を超える製品が市販されています(注:2010年3月時点)。物性を工夫することによって、液状栄養剤に比べて短期間での注入が可能になり、より生理的な消化管運動や消化吸収作用を引き起こすことを期待して開発されました。そのことで従来の液状栄養剤で起こりうる逆流などのリスク、さらには介護負担の軽減効果が報告され、急速に使用が増加しています。

もともとわれわれは、食物を口の中で噛み砕き半固形の状態で嚥下します。このとき胃は、食物が咽頭や食道を通過する刺激によって前もって弛緩し (受容性弛緩)、受け入れの準備をします。続いて食物が胃に到達すると、その圧刺激によって胃はさらに弛緩してより多くの食物を受け入れられるようになります(適応性弛緩)。その後の蠕動運動によって食物は撹拌・粥状化され、十二指腸へ少しずつ排出され消化吸収されます。

一方、胃瘻から時間をかけて液状栄養剤をゆっくり注入すると、前述した胃の弛緩が起こらないため、通常の食事のような消化管運動が起こりにくく、消化吸収能にも影響することが予測されます。半固形化栄養剤の短時間胃内注入法では、口腔内から食道をバイパスしてはいますが、短時間である程度のボリュームを持った粥状物が胃内に入るため、より生理的な蠕動運動や消化吸収が期待できると考えられます。

このように、半固形栄養剤は、患者さん本人および介護者にとって非常に魅力的な栄養剤ですが、わが国独自の形態であり、またエビデンスとなるべき研究はほとんどなく、現時点では現場で試行錯誤しつつ使用しているというのが実情です。

そこで今回、半固形に分類される栄養剤について、その特徴と使用方法のポイントをまとめてみました。

半固形とは?

半固形の分類

半固形と固形について明確な言葉の定義はなく、一般に栄養剤をゲル化して容器から取り出しても形が崩れないものを固形、それ以外の粘度をつけたものを半固形として使っていることが多いようです。ここでは両者を区別せず、いずれも半固形として取り扱うことにします。

現在胃瘻から投与されている半固形化栄養剤は、以下のように分けられます。

① 市販の半固形化栄養剤
② 市販の液体栄養剤に増粘剤あるいはゲル化剤を加え粘度を調整したもの
③ 粘度を調整したミキサー食

今回は市販の製品①と②に焦点を当てて概説します。

半固形化の材料:増粘剤とゲル化剤

半固形化するために用いられる材料は、主に粘性多糖類ですが、使い方によって呼び方が変わります。つまり少量使用することで高い粘性を示す場合を「増粘剤」、液体のものをゼリー状に固める作用(ゲル化)を目的に使う場合を「ゲル化剤」と区別されます。増粘剤にはグァーガム、キサンタンガムなどが、ゲル化剤には寒天、ペクチンなどがあり、現在市販されている半固形栄養剤や、増粘剤・ゲル化剤にはデキストリンと上記増粘多糖類が含まれています。

図1 ペクチンとカルシウムイオンのエッグボックスモデル
図1 ペクチンとカルシウムイオンの
エッグボックスモデル

増粘剤は水に溶解あるいは分散することで粘ちょう性を生じますが、それぞれ粘性、耐酸性、耐熱性などに違いがあり、また組み合わせて使うことで相乗的な増粘効果を発揮するため、併用されることも多いようです。

一方、ゲル化剤として多用されるペクチンは、カルシウムイオンなど二価金属イオンの存在下でゲルを形成します。ペクチンとカルシウムによる交差結合は、単に静電気的なものではなく複合構造によるもので“エッグボックスモデル”(図1)と呼ばれ、pHの変化にも非常に安定です。この反応の安定性のためには最適な量のイオン化カルシウムが必要で、さらに栄養剤に含まれる全可溶性固形分、酸度、イオン強度、カルシウムの利用率などが、複合的に最終的なテクスチャーと安定性に影響します。

市販の半固形栄養剤では、ハイネゼリーが寒天によるゲル化、その他の製品はグァーガムなどによる粘度調整がなされています。

(現在市販されている主な半固形化栄養剤増粘剤・ゲル化剤は、各リンク先のPDNレクチャーをご覧下さい。)


変わる粘度値

表 REF-P1と食品流動食の反応速度
表 REF-P1と食品流動食の反応速度(クリックで拡大

液状栄養剤に増粘剤を加えて半固形化する場合は、期待する機能(粘性増強かゲル化か)、使用する食品の成分(pH、糖度、食塩量、カルシウム量等)を考慮して調整する必要があります。たとえば表は、REF-P1を各種液状栄養剤に添加して同じ条件で処理した場合の粘度を示したものですが、製品ごとの粘度は860~2,250mPa・sと大きく差があり、さらに時間経過とともに変化しました。

図2 回転と粘度
図2 回転と粘度

さて、今少し触れましたが、もうひとつの分類の仕方に「粘度」があります。これはmPa・S(ミリパスカル秒)という単位で表され、数値が高いほど粘度が高い、つまりドロドロ程度が強くなります。粘度は市販のほとんどの半固形栄養剤に表記されていますが、その範囲は1,000~20,000mPa・Sと大きな幅があります。

ただし、検査値はあくまでも胃に入る前の粘度であり、かつ測定時の温度や撹拌数などの条件や測定器具は統一されたものではありません。さらに、胃に入れた後では胃の蠕動運動や胃液量、pH、消化管ホルモン、胃内停滞時間などの条件によって粘度は変化することが推察されます(いわゆる“動的粘度”)。

ちなみにPDN編集部で行った市販ヨーグルトの粘度調整実験では、同じ粘度計を使用しても回転数を変えたり(1分間に6回・12回・30回・60回)、ローターの種類を変えたり(測定する物性と回転数に合わせ、誤差が最小限になるよう適正なローターを選択)すると粘度値が変わりました(図2)。

一方、固形化に分類される栄養剤は、粘度に加えてかたさ(N/m2)を表記し、逆流防止の指標としています。従いまして、製品の粘度だけで逆流防止の判定指標にすることは問題がありそうです。


半固形化で期待されること

メリットいろいろ

ここであらためて、胃瘻栄養での半固形栄養剤投与で期待できるメリットを列挙してみます。

1)胃食道逆流による逆流性食道炎や誤嚥性肺炎を軽減できる

実は現時点では半固形化で逆流が防げるという学問的な裏付けはありません。日本以外の国で普及しているのは液状製剤だけということもあり、少ない症例や施設単位での効果報告にとどまっているのが現状です。唯一論文として採用された報告では、2,000 mPa・Sの製品を使った検討で、液状製剤との間に逆流に関して有意な差は認めなかった、という結果でした。原因として、経腸栄養を開始すると唾液の分泌量が増加しますので、口腔内の細菌を含む唾液誤嚥の関連も影響しているかもしれません。

2)瘻孔からの漏れ、スキントラブルが防止できる

半固形栄養剤では胃の生理的な拡張および貯留能が発揮されることと、物理的に液体より漏れにくいことが理由と思われます。

3)血糖や消化管ホルモン分泌異常が軽減できる

半固形化栄養剤の投与で、通常の経口摂取と同様の消化管の蠕動運動とそれに引き続く消化吸収作用が起こるため、液状栄養剤に比べてより生理的なインスリンや消化管ホルモンの分泌が期待されます。そのことは、ダンピング症状や下痢の防止にもつながります。
半固形化栄養剤投与でも改善しない下痢の場合は、感染性腸炎や薬剤性など他の原因を鑑別する必要があります。また製剤によっては食物繊維の含有量(0.4~2.6g/100kcal) が少ないものもあり、追加するのもひとつの解決方法です。

4)投与時間が短縮できる

投与時の同一姿勢の短縮による褥瘡の防止、リハビリなどの活動にかける時間が確保できるため、ADLの改善が期待されます。
また、介護者の時間や労力の負担軽減は明らかで、ある施設では、平均注入時間が従来法の2時間から15分に短縮され、下痢の改善なども相まって、職員の時間外勤務時間が著明に減少したなど、多数報告されています。

個々の症例による使い分けを

今回のシリーズでお伝えしたかったことは、製品に記載されている粘度だけでは逆流防止効果の判定指標にはならず、体内に入ってからの“動的粘度”の影響を考慮する必要があること。したがって、ある症例に効果的であっても、他の症例にも当てはまるとは限らないことを理解してほしい、ということです。

逆流の高リスク症例で逆流防止が目的であれば、エビデンスがないとはいえ、できるだけ高粘度の栄養剤が望ましいでしょう。一方、逆流のリスクは高くなく短時間投与が目的であれば、注入しやすい比較的低粘度の製剤が好まれると思います。また、低粘度の製剤や液状栄養剤に、前もって胃内に投与しておくタイプの増粘剤を使用すると、胃瘻だけではなく経鼻チューブでも投与の可能性が拡大します。

つまり、現時点では患者さんの状態(基礎疾患、褥瘡の有無あるいは高リスク、消化器症状、瘻孔からの漏れやスキントラブルの有無など)や介護状況(経済力、介護力、介護者の理解力、在宅か施設かなど)を検討して、個々の症例ごとに使い分けるというのが実用的のようです。

逆流予防を考慮した水分追加法

ところで、半固形栄養剤は短時間で一定量を胃内に注入するため、水分追加方法に注意が必要です。半固形栄養剤中の水分量は1kcal/mlのもので70~80%程度、2kcal/mlの製剤では50%程度のものもあり、比較的大量の水分追加が必要です。ただし栄養剤投与直後に追加すると、胃内で栄養剤の物性が変化し、半固形としての効果が減退することが考えられます。よって、投与後の追加はルート洗浄程度だけにして、食間に必要量を投与するか、とろみつきの水分を投与する、あるいは最近発売された十分な水分を含む製剤(ハイネゼリーAQUA、カームソリッドなど)を用いる方法があります。

福井県立病院では半固形、液状にかかわらず、栄養剤投与前に必要な白湯を15分程度で投与し、約30分経過してから栄養剤を投与するようにしていますが、特殊な症例を除き、逆流は防げています。水分投与方法につきましては、このシリーズの第3回で詳しく述べられる予定です。

PDN通信 31号 (2010年4月発行) より