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今回は、群馬県知的障害者(児)摂食・嚥下研究会の取り組みを紹介します。

学童期の摂食・嚥下リハビリテーションは、さまざまな体験を通して身辺自立を獲得してゆく、成長期ならではのポイントがあります。医療・福祉、そして教育現場の連携を訴える当研究会の様子をレポートしました。

Ⅲ摂食・嚥下機能向上のための取り組み
6.医療・福祉・教育現場の連携で
摂食嚥下機能の向上と身辺自立の支援を!
~第2回群馬県知的障害者(児)摂食・嚥下研究会


群馬県知的障害者(児)摂食・嚥下研究会

PDN通信 29号 (2009年10月発行) より

(所属・役職等は発行当時のものです)

第2回群馬県知的障害者(児)摂食・嚥下研究会

代表世話人の山川治先生
代表世話人の山川治先生

2009年7月25日(土)、群馬大学荒牧キャンパス内ミューズホールにて、第2回群馬県知的障害者(児)摂食・嚥下研究会が開催された。

昨年の第1回参加者80名に対し、今年の第2回目は申込が200名を越えた。知的障害者(児)を中心とした本研究会は、全国でも先進的な取り組みとして注目を集めているようだ。

代表世話人、山川治先生(前橋赤十字病院摂食・嚥下・胃瘻外来)からの、本研究会の設立趣旨説明につづき、今回の当番世話人、吉野浩之先生(群馬大学教育学部障害児教育学講座准教授)から開会の挨拶。

「医療・福祉の連携に加えて、成長発達段階にある学童期にかかわる、学校教員の連携も必要。摂食・嚥下訓練にあたっては、基本的な正しい技術を身につける事で、さまざまな職種がかなりのところまでカバーできると思われる。今後、当研究会では、口腔ケアや摂食嚥下訓練についての実技指導も行っていく予定なので、ぜひここ群馬県から新しい動きを発信していこう」と呼びかけた。

いかにして潜在能力をひきだすか

田角勝先生(左)と吉野浩之先生(右)
田角勝先生(左)と吉野浩之先生(右)

一般演題は6題(下に記載)。潜在能力を引き出すための、知能とコミュニケーション能力、両面からのアプローチの工夫が発表された。

特別講演は、昭和大学医学部小児外科学教室教授の田角勝先生による「小児の摂食・嚥下障害」

リハビリテーションのポイントとして、全身のさまざまな機能・感覚を使って脳に刺激をインプットし、脳を鍛え、脳の神経回路を通じて摂食・嚥下機能に関する潜在能力をアウトプットしてゆくメカニズムをイメージすること、そのためには楽しさ、おいしさ、コミュニケーションなどで、意欲を引き出す工夫も大切。できない部分を補うのとできる部分を増強させる両面からのアプローチをすること、最終的には訓練としての意識的な嚥下ではなく、我々が日常的に飲み込んでいる無意識的な嚥下を目指して欲しい、と語られた。

はんな・さわらび療育園の金子広司園長
次回の世話人は
はんな・さわらび療育園
金子広司園長

経管栄養へ移行するタイミングについての質問に対しては、
「経口摂取のみで健康が維持できない状況になれば、経管栄養で補わざるを得ないが、同時にどういう工夫をすれば管をはずすことができるかも、考えていかなければならない。
結果的に経口に戻すことが難しければ、胃瘻にした方が本人のQOLが上がるという印象を持っている。ご両親がそれをどう受け止めるかも考慮しながらではあるが、胃瘻からの確実な栄養で、全身状態や食べる機能が改善され、少量であっても口から食べたいものを食べる楽しみにつながることもある

と答えられた。

司会の山川先生は、「施設という生活の場で胃瘻を考えると、食べられなくなったから即胃瘻、となりがちな、病院での判断とは異なる要素を持っていると思う。経口摂取が可能かどうかの再評価を、誰がどのタイミングで行っていくのか、ということも含め、経口・経管・胃瘻と線引きをするのではなく、多様なケースを情報交換・共有しながら、検討してゆくべき課題ではないだろうか」と提言された。

第3回は、重症心身障害児(者)施設はんな・さわらび園の金子広司園長を当番世話人に、同じく群馬大学荒牧キャンパスにて実技指導を含めて開催の予定。

第2回群馬県知的障害者(児)摂食・嚥下研究会 一般演題

第2回群馬県知的障害者(児)摂食・嚥下研究会の様子

経口摂取困難な重症心身障害者の歯肉マッサージによる
機能向上の有効性に関する検証

西群馬病院 看護部 富澤由子、他

経管栄養中で口唇閉鎖不良による流涎が多い患者、口腔内の乾燥が著明で舌苔や口腔内汚染が生じている患者に、栄養剤投与前に歯肉マッサージを行った。マッサージという刺激が大脳皮質の覚醒を促し、嚥下反射の促進、嚥下機能の向上をもたらしたと思われ、口腔内乾燥や過剰な流涎が軽減された。

食環境の変化により自食意欲へと繋がった重症心身障害者の一考察

西群馬病院 療育指導室 田村達也、他

集団の中で食事をすると集中力を欠き、自食しなくなる59歳の女性に対し、食環境(目の行き届く範囲での間仕切り、使いやすい自助具、シールや応援カードなど)を工夫した。本人の能力や好みに合わせることで、楽しみながら達成感も獲得し、本人の潜在能力を引き出すことで、集中し適切な速さで自食できるようになった。

知的障害特別支援学校における養護教諭の歯や口の指導に対しての意識及び実態の把握に関する研究

群馬大学教育学部附属特別支援学校 養護教諭 岩崎和子、他

全国の養護教諭100人を対象として、知的障害特別支援学校における口腔ケア指導の実態調査を実施。76%が指導をしていると回答したものの、個別指導については20.8%と低かった。知的障害の有無に関わらず、身辺自立の点からも、個別指導のできる時間の確保と、指導方法・技法の研修が必要と思われた。

摂食・嚥下障害者(児)における楽食における地域支援の取り組み

ホワイト歯科 歯科医師 黒田由紀子、他

地域における摂食・嚥下の専門家育成を目標に活動する中で、嚥下障害者と共に嚥下食のフルコースを楽しむ会を開催した。今後も継続してゆくと共に、協力店舗を増やすためのセミナーも計画中。

入所施設における高齢知的障害者の食事に関する実態調査

国立重度知的障害者総合施設のぞみの園 摂食・嚥下チーム 槻岡正寛、他

施設入所者の高齢化に伴い、食形態にも変化がみられている。しかし、専門家に相談・受診せずに施設職員の判断で行われる事も多く、個別に適正な食形態を把握する必要性があると思われる。

脳出血後摂食嚥下リハビリにより経口摂取まで回復した1症例

国立重度知的障害者総合施設のぞみの園 摂食・嚥下チーム 黛智則、他

脳出血後の後遺症により摂食嚥下障害となった入所者に対し、専門家による定期的な歯科診療・機能評価・リハビリを施行する事で、再び経口摂取が可能になった。個々の治療計画・食形態を検討し、患者の食に対するQOLの向上をはかっていきたい。


PDN通信 29号 (2009年10月発行) より

(所属・役職等は発行当時のものです)