栄養必要量の算出

福井県立病院 内科医長・NST Chairman 栗山 とよ子

個々の栄養必要量は、一般に必要エネルギー量→蛋白質量→脂肪量→糖質量の順に算出し、さらにビタミン量、微量元素量、水分量を決定します。適切な算出のためには、栄養障害の程度や、病態および治療に伴う代謝亢進の程度など患者の状態をできるだけ詳しく把握することが大切です。

必要エネルギー量

必要エネルギー量は一般にHarris-Benedictの式で基礎代謝量(BEE;basal energy expenditure )を求め、これに活動係数(AF;active factor)と傷害係数(SF;stress factor)を乗じて求めます。(AFおよびSFの例を表1に示します)体重は一般に現体重か理論体重の軽いほうを用いますが、両者の差が非常に大きい場合は調節体重とする場合もあります。

表1 活動係数と傷害係数
活動係数 (AF) 傷害係数(SF)
寝たきり(意識低下状態) 1.0 飢餓状態 0.6 ~ 0.9
寝たきり(覚醒状態) 1.1 手術 軽度 ; 1.1中等度 ;1.3~1.4 高度 ;1.5~1.8
ベッド上安静 1.2 長管骨骨折 1.2 ~ 1.3
ベッド外活動あり 1.3~1.4 癌/COPD 1.2 ~ 1.3
一般職業従事者 1.5~1.7 腹膜炎/敗血症 1.2 ~ 1.3
    重症感染症/多発外傷 1.2 ~ 1.3
    熱傷 1.2 ~ 1.3
    発熱 (1℃ごと) 1.2 ~ 1.3

蛋白質必要量

蛋白質必要量は、代謝亢進の程度や低Alb血症の程度から0.8~2.0g/kg/日の範囲で、また非蛋白熱量(NPC ; non-protein calorie)/窒素(N)比が一般に150~200程度になるよう算出します。代謝亢進の程度によって表2のように決定する方法もあります。ただし、急性腎不全・透析前の慢性腎不全および非代償性の肝障害増悪期では窒素負荷に伴う病態悪化を避けるため0.6~0.8g/kg/日程度(NPC/N比300~350)とし、逆に重度熱傷のように著明な代謝亢進・蛋白需要増大があれば2.0~4.0g/kg/日(NPC/N比80~120)まで増量します。

表2 蛋白質必要量
代謝亢進レベル 蛋白質必要量(g/kg/日)
正常 (代謝亢進なし) 0.8~1.0
軽度 (小手術、骨折など) 1.0~1.2
中程度 (腹膜炎、多発外傷など) 1.2~1.5
高度 (多臓器不全、広範熱傷など) 1.5~2.0

脂質必要量

脂質必要量は経腸・経口摂取では一般に必要エネルギーの20~30%とします。静脈栄養の場合は10%程度とし、代謝合併症予防のため2g/kg/日は超えないよう、一方必須脂肪酸欠乏症防止のために最低50g/週を目安に投与します。なお、COPDのように換気障害を伴う呼吸器疾患の場合、代謝の過程で発生するCO2産生抑制のために呼吸商(RQ)の低い脂質(RQ0.7)の割合を多く呼吸商の高い糖質・炭水化物(RQ1.0)の割合を少なくする方が有利であり、糖尿病の場合も同様に血糖上昇を防ぐため脂質の割合を増量(~60%)する場合もあります。

糖質必要量

糖質必要量必要エネルギーから蛋白質と脂質のエネルギーを減じて求めます。

経静脈投与の場合、代謝合併症を防ぐため最大投与速度を5mg/kg/min.以下、クリティカルな状態では4mg/kg/min以下とします。経腸投与では静脈投与ほど厳しい上限はありません。一方、ケトーシス防止・体蛋白異化抑制のため最低100g/日以上の投与が必要です。

ビタミンおよび微量元素

ビタミンおよび微量元素は、特に欠乏症がなければ必要所要量を投与します。但し開始時の血清濃度が正常でも、水溶性ビタミンは貯蔵量が少なく、特にサイアミン(ビタミンB1)・リボフラビン(ビタミンB2)などは栄養投与開始に伴って需要が増大し、さらに栄養不良状態では複数の欠乏症が存在する可能性が予想されますので、特に中心静脈栄養の場合は開始時より総合ビタミン剤・微量元素製剤の投与が必要です。末梢静脈栄養でも潜在的なビタミンB1欠乏や消費増大に伴うウェルニッケ脳症が報告されておりB1を含むPPNが勧められます。

ほとんどの経腸栄養剤は“日本人の食事摂取基準2005年版”を基準にビタミン・微量元素が含有されていますが、投与量が少ない(1200kcal以下)と必要量を満たさない製品があり、長期間同一栄養剤を投与する場合は注意が必要です。

水分必要量

水分必要量は、一般に投与エネルギー量(kcal)と同量(ml)か、あるいは(体重kg)×30~35(ml)で求めます。ただし心不全・腎不全など水分制限がある場合は減量が必要です。

経腸栄養剤に含まれる水分量は64~85%と幅があり、特に半固形および高カロリー密度の栄養剤中の水分含有量は少ないため、脱水を引き起こさないよう十分量の白湯投与が必要です。