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Chapter3 静脈栄養
2.中心静脈栄養法(TPN)

2.11 TPN用ビタミン製剤の種類と特徴


東京大学医学部附属病院薬剤部 柳原良次

柳原良次
記事公開日 2012年7月19日

1.はじめに

ビタミンは正常な生理機能を維持するために必要不可欠であるが、基本的に体内で生合成されないことから体外から取り入れる必要がある。脚気などに代表されるビタミン欠乏に伴う病態は、健康に対する食事の重要性を認識させることになった。しかし、消化管の機能が十分ではない、もしくは使用することができない病態では、ビタミンなどの必要な栄養素の補給を輸液に頼ることになる。静脈栄養におけるビタミン製剤は、1968年に中心静脈栄養(TPN)に9種類のビタミンが使用されたのが最初であり、その後多くの検討により変更が加えられ、現在ではTPN用として主に13種類のビタミンを含む製剤が使用されている。本章では、これらのTPN用ビタミン製剤について、個々のビタミンの基本的な知識とそれぞれの製剤の特徴について解説する。

2.ビタミン各論

この項では、TPN用ビタミン製剤に含まれる脂溶性ビタミンと水溶性ビタミンについてそれぞれの推奨量や役割について解説する。静脈栄養におけるビタミンの推奨量は、主に1975年に出された米国医師会(AMA)のガイドライン1)(ビタミンKは米国静脈経腸栄養学会(ASPEN2)))の値を示した(表1)。また、一部のビタミンについては、厚生労働省から出されている日本人の食事摂取基準(2010年度版)3)の情報も参考値として示した。

表1 TPN投与時の各ビタミンの推奨量
種類 単位 AMA1) ASPEN2)
脂溶性



ビタミンA

I.U.

3,300

1,000μg

ビタミンD

μg

5

5

ビタミンE

mg

10

10

ビタミンK

mg

1

水溶性



ビタミンB1(チアミン)

mg

3

3

ビタミンB2(リボフラビン)

mg

3.6

3.6

ビタミンB6

mg

4

4

ビタミンB12

μg

5

5

ビタミンC

mg

100

100

ニコチン酸アミド

mg

40

40

パントテン酸

μg

15

15

葉酸

μg

400

400

ビオチン

μg

60

60

*1I.U.=0.3μg

2.1 ビタミンA(レチノール)

製剤にはレチノールパルミチン酸エステルとして含まれており、AMAガイドラインでは3,300IU/日を推奨している1)。ビタミンAは肝臓に蓄えられ、rapid turnover proteinとして知られるレチノール結合蛋白に結合して体内を循環する。欠乏症は、夜盲症、成長障害、生殖機能低下、抵抗力低下、過剰症では脳圧亢進、視覚障害、皮膚剥離、肝障害、催奇形性などが認められる。また、妊娠3ヵ月以内または妊娠を希望する婦人に5,000I.U./日以上の投与は禁忌である。日本人の食事摂取基準における妊娠中のビタミンAの耐容上限量は、健康障害発現量から算出すると3,000μg/日であるとされている3)

2.2 ビタミンD(カルシフェロール)

製剤には、エルゴカルシフェロール(D2)あるいはコレカルシフェロール(D3)として含まれ、AMAガイラインでは5μg/日を推奨している1)。エルゴカルシフェロールとコレカルシフェロールは側鎖構造が異なるが分子量はほぼ等しく、体内でも同様に代謝され、ほぼ同等の生理活性を有する。これらのビタミンDは肝臓、腎臓で代謝されて活性化し、小腸や腎臓におけるカルシウムとリンの吸収に関与している。欠乏症としては、小児ではくる病、成人では骨軟化症や骨粗鬆症、過剰症としては高カルシウム血症や異所性石灰化や尿路結石、腎障害などがある。

2.3 ビタミンE(トコフェロール)

製剤にはトコフェロール酢酸エステルとして含まれており、AMAガイドラインでは10mg/日を推奨している1)。トコフェロールは脂肪に溶解する唯一の還元物質(抗酸化薬)であり、活性酸素による不飽和脂肪酸の過酸化を防止し、癌や冠動脈疾患の予防効果が期待されている。欠乏症には未熟児の溶血性黄疸、胆道閉鎖症などがある。過剰症としては凝固異常などがあるとされているが、統一した見解ではなく詳細は不明である。

2.4 ビタミンK(フィトナジオン、メナテトレノン)

製剤にはフィトナジオン(K1)あるいはメナテトレノン(K2)として含まれている。AMAガイドラインでは特に必要量が示されていないが、ASPENのガイドラインでは1mg/日を推奨している2)。ビタミンKは血液凝固に重要な役割を果たしているビタミンとして知られているが、骨代謝にもビタミンK依存性蛋白質が関与している。欠乏症では血液凝固異常や出血、骨形成不全が認められる。フィトナジオンやメナテトレノンの過剰症の報告はないが、血栓症や塞栓症などの既往がある場合には注意する必要がある。また、抗凝固剤であるワルファリンはビタミンKの拮抗薬であることから、ワルファリン服用患者ではビタミンKを含むビタミン製剤を慎重に投与することが望ましい。

2.5 ビタミンB1(チアミン)

製剤にはチアミン塩酸塩として含まれており、AMAガイドラインでは3mg/日、FDAでは6mg/日を推奨している1)。日本人の食事摂取基準におけるチアミン塩酸塩の推奨量は、0.54mg/1,000kcalであるとされている3)。チアミンは解糖系において重要な役割を果たしており、活性型チアミンピロリン酸となってピルビン酸をアセチルCoAに変換する補酵素として作用している。従って、チアミンの欠乏によってピルビン酸が正常に代謝されずに乳酸が産生されて蓄積しアシドーシスを発症する。高カロリー輸液の場合には大量の糖質が投与されるため、特にチアミン欠乏に注意する必要がある。欠乏症としては、脚気、乳酸アシドーシス、Wernicke-Korsakoff症候群などがある。

2.6 ビタミンB2(リボフラビン)

製剤にはリボフラビンリン酸エステルナトリウムとして含まれており、AMAガイドラインでは3.6mg/日を推奨している1)。日本人の食事摂取基準におけるビタミンB2の推奨量は、リボフラビンとして0.6mg/1,000kcalであるとされている3)。ビタミンB2は補酵素型のフラビンモノヌクレオチド(FMN)とフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)として存在し、生体内の酸化還元反応やエネルギー代謝に関与していることから、主に発達や成長、授乳、運動などにおいて重要な役割を担っていると考えられている。欠乏症としては、成長遅延、口内炎、脂漏性皮膚炎、貧血などがある。

2.7 ビタミンB6(ピリドキシンなど)

製剤にはピリドキシン塩酸塩として含まれており、AMAガイドラインでは4mg/日を推奨している1)。ビタミンB6には、ピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミンがあり、いずれもリン酸化を受ける。生体内では主にピリドキサールリン酸がアミノ酸代謝のアミノ基転移反応などの補酵素として機能しているが、ピリドキシンリン酸も活性型補酵素として作用している。欠乏症としては、貧血や神経障害がある。また、アルコール中毒や抗結核薬のイソニアジドの服用、血液透析がビタミンB6欠乏のリスクになるため注意が必要である。一方、ピリドキシン大量摂取時には、感覚性ニューロパシーが認められることも知られており、日本人の食事摂取基準では耐容上限量をピリドキシンとして60mg/日、0.86mg/kg体重としている3)

2.8 ビタミンB12(コバラミン)

ビタミンB12はコバルトを含有する化合物(コバミド)であり、製剤にはシアノコバラミンとして含まれている。AMAガイドラインでは5μg/日を推奨している1)。シアノコバラミンはCN基が外れてヒドロキシコバラミンとなり、さらにアデノシルコバラミンやメチルコバラミンに代謝されて生体内での生理活性を示す。これらのビタミンB12は、メチルマロニルCoAムターゼの異化反応(アデノシルコバラミン)やメチル基転移酵素(メチルコバラミン)などの補酵素として作用している。欠乏症としてよく知られているのは、巨赤芽球性貧血や末梢神経障害である。

2.9 ビタミンC(アスコルビン酸)

製剤にはアスコルビン酸として含まれており、AMAガイドラインでは100mg/日を推奨しているがFDAの推奨量は200mgに引き上げられている1)。ビタミンCは、抗酸化作用による生体内物質の還元作用やコラーゲンの生成・保持、カルニチンやカテコールアミンの生合成などに重要な役割を果たしている。侵襲時には必要量が増加すると言われている。また、ビタミンCは代謝酵素のチトクロームP-450の活性化に関与しており、副腎皮質におけるステロイドの生成にも影響を及ぼす。ビタミンC欠乏により壊血病やMoller-Barlow病を呈することが知られており、過剰症としては、経口ではあるが1日3~4gを摂取することにより下痢を起こすとされている。

2.10 ナイアシン(ニコチン酸、ニコチン酸アミド)

ナイアシン活性を有する化合物には、ニコチン酸、ニコチン酸アミド(ニコチンアミド)、トリプトファン(トリプトファン60mgからナイアシン1mgが生合成される)がある。製剤に含まれるナイアシンはニコチン酸アミドであり、AMAガイドラインの推奨量は40mg/日である1)。日本人の食事摂取基準における成人および小児におけるナイアシンの推奨量は、5.8mgNE(ナイアシン当量*)/1,000kcalであるとされている3。ニコチン酸アミドは、NAD(P)(nicotinamide adenine dinucleotide(phosphate))の構成成分であり、解糖系、脂肪酸代謝、組織内呼吸などの酸化還元反応の補酵素として重要な役割を果たしている。欠乏症としては皮膚炎や下痢、中枢神経障害を呈するペラグラが有名であり、過剰に摂取(食事摂取基準では耐容上限量5mg/kg)すると発赤などの皮膚症状や下痢や便秘などの消化器障害、肝障害などを生じる可能性がある。

*ナイアシン当量(mgNE )=ナイアシン(mg)+1/60トリプトファン(mg)

2.11 パントテン酸

AMAガイドラインではパントテン酸の推奨量を15mg/日としている1)。パントテン酸の多くは、生体内で補酵素型のコエンザイムA(CoA)の誘導体であるアセチルCoAやアシルCoAなどの構成成分として存在し、糖代謝や脂質代謝などに関与している。パントテン酸の欠乏や過剰は実験的に再現できないため、それらの症状の詳細は不明である。

2.12 葉酸

AMAガイドラインでは葉酸の推奨量を400μg/日としている1)。葉酸は、DNA、RNAの合成・分解や蛋白合成、細胞分裂などに関与しており、正常な造血作用(巨赤芽球を正常細胞に成熟)、成長や妊娠の維持に重要な役割を果たしている。重篤な葉酸欠乏は巨赤芽球性貧血を引き起こし、受胎後に不足すると胎児の神経管障害の発生をきたす。

2.13 ビオチン

AMAガイドラインではビオチンの推奨量を60μg/日としている1)。ビオチンは、糖新生や脂肪酸合成、β酸化、分岐鎖アミノ酸代謝などに関与するカルボキシラーゼの補酵素として作用している。ビオチンが欠乏すると皮膚炎や脱毛、倦怠感などを呈するとされており、過剰摂取は精子形成が障害される可能性が示唆されている。ビオチンの欠乏や過剰に関するデータは十分ではなく詳細は不明である。

3.製剤各論

この項では、臨床で使用可能な7種類のTPN用ビタミン製剤(2011年12月現在)について、それぞれの特徴について解説する(表2)。なお、各製剤の詳細な内容については、医療用医薬品添付文書および各社インタビューフォームを参照していただきたい。


表2 TPN用ビタミン製剤の組成と特徴(クリックで拡大)
表2 TPN用ビタミン製剤の組成と特徴<

3.1 M.V.I.「アイロム」

M.V.I.「アイロム」注の組成は、1953年に緊急時および外科的治療時の非経口投与時のビタミン補給を考慮して開発された。その後、1968年にDudrick博士がブドウ糖、アミノ酸とともにこの組成のビタミンをTPNとして使用し、その有用性が評価された4)。しかし、本製剤の組成は脂溶性ビタミン3種類、水溶性ビタミン6種類しか含まない上、各ビタミンの含量が現在のガイドラインの推奨量と異なっている。特に、ビタミンAは10,000I.U./バイアルと高含量のため、妊娠3ヵ月以内または妊娠を希望する婦人への投与は注意が必要である(5,000I.U./日以上は禁忌)。これらのことから、最近ではこの製剤をTPN用のビタミンとして使用する状況は極めて限定されると考えられる。(Bが非常に多いのも特徴)

3.2 M.V.I.12キット

M.V.I.12キット注は、ネオM.V.I.9注とM.V.I.3注をシリンジバイアルに充填したプレフィルドシリンジ製剤である。シリンジ容器の前室にM.V.I.3注、後室にネオM.V.I.9注が充填されており、専用のシリンジホルダーを用いて輸液に注入する。

一方、組成はAMAガイドラインの処方と同一であることからビタミンKが含まれていないため、必要に応じてビタミンKを追加する必要がある。

3.3 オーツカMV

オーツカMV注は、水溶性ビタミン9種類(1号)の凍結乾燥製剤のバイアルと脂溶性ビタミン4種類(2号)の水溶液のアンプルからなり、2号の水溶液を1号に加え溶解して使用する。オーツカMV注は水溶性ビタミンと脂溶性ビタミンが分かれて充填されており、この特性を利用して脂溶性ビタミンの投与について考慮が必要な場合(ワルファリン服用患者に対するビタミンK、高カルシウム血症の患者に対するビタミンDなど)には、水溶性ビタミン9種類(2号)だけを使用することが可能である。組成はAMAガイドライン準じた処方にビタミンK(フィトナジオン)を追加している。この製剤の医療用医薬品添付文書には、副作用として肝障害が記載されている。

3.4 ビタジェクト

ビタジェクト注は、安定性を考慮してA液(脂溶性ビタミン4種類と水溶性ビタミン5種類)とB液(水溶性ビタミン4種類)に分けられた2本のプラスチックシリンジに充填されているプレフィルドシリンジ製剤である。組成はAMAガイドラインの処方を基本とし、ビタミンK(フィトナジオン)を2mg追加している。また、ビタミンDをコレカルシフェロール(D3)からエルゴカルシフェロール(D2)に変更して10μgとしており、ビタミンEが15mg、ビタミンB12が10μg、ビオチンが100μgに増量されている。

3.5 ネオラミン・マルチV

ネオラミン・マルチは当初3本のアンプルに分けた組み合わせ製剤であったが、利便性や細菌汚染の低減化の観点から13種類のビタミンを1バイアルに充填したネオラミン・マルチVとなった。ネオラミン・マルチVは凍結乾燥製剤であるため溶解して使用する。組成は、AMAガイドラインの処方を基本としているが、ビタミンK(フィトナジオン)を2mg追加し、ビタミンDをコレカルシフェロール(D3)からエルゴカルシフェロール(D2)に変更して10μg含有している。また、ビタミンEは15mg、ビタミンB12は10μg、ビオチンは100μgにそれぞれ増量されている。

3.6 マルタミン

マルタミン注は世界で初めて13種類のビタミンを1バイアルにした凍結乾燥製剤である。組成はAMAガイドラインの処方をもとにしているが、ビタミンA(4,000IU)、B1(5mg)、B2(5mg)、B6(5mg)は他の製剤よりも増量されている。

3.7 ダイメジン・マルチ

ダイメジン・マルチはネオラミン・マルチVの後発品である。高カロリー輸液用ビタミン製剤では唯一の後発品であり薬価が最も低い。ビタミンの成分・含量はネオラミン・マルチVと同様であり、剤形も同じく凍結乾燥製剤であるため用時溶解して使用する。ネオラミン・マルチVとは添加物が異なっており、L-リン酸ヒスチジン塩酸塩水和物がマルトースに変更されている。

4.注意点

4.1 製剤間の違い

(1)禁忌

医療用医薬品添付文書には、いずれの製剤も過敏症の既往歴や血友病の患者(パントテン酸による出血時間の延長)には投与しないことと記載されている。また、ビタミンAは、妊娠3ヵ月以内または妊娠を希望する婦人への5,000I.U./日以上の投与は禁忌であることから、M.V.I.「アイロム」使用時は特に注意が必要である。

(2)成分、含量

TPN用ビタミン製剤の中で成分数に相違があるのは、M.V.I.「アイロム」とM.V.I.-12キットである。M.V.I.「アイロム」は9種類のビタミンしか含まず、特にビタミンAを高含量で含むことから過剰投与に注意する必要がある。また、M.V.I.-12キットはAMAガイドラインに準じてビタミンKを除く12種類のビタミンを含有する製剤である。両製剤ともビタミンKを含まないため、特に乳児で使用する場合はビタミンK欠乏による出血に注意が必要である。他の製剤はAMAガイドラインにビタミンKを追加してASPENのガイドラインと同様の13種類のビタミンを含有する製剤となっている。マルタミンはAMAガイドラインを参考にその後の検討で変更を加えており、ビタミンAやB群の含量が他の製剤に比べ高くなっているのが特徴である。

(3)添加物

それぞれの製剤には様々な添加剤が含まれていることから、副作用としてショックなどのアレルギー症状が生じる可能性がある。特にマルタミンは可溶化剤としてポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を使用しているためアレルギー症状には特に注意する必要がある。

(4)保存方法

オーツカMVとビタジェクトは室温保存可能であるが、他の製剤は冷所での保存が必要である。マルタミンのみ遮光の指定がないが、基本的にはいずれの製剤も直射日光等が当たらない環境が望ましいと考えられる。

(5)プレフィルドシリンジ製剤

TPN用ビタミン製剤の中でプレフィルドシリンジ製剤は、M.V.I.-12キットとビタジェクトがある。TPNの調製において、ビタジェクトを含むプレフィルドシリンジ製剤を用いた場合と従来のアンプル、バイアル製剤を用いた場合について比較した検討5)では、プレフィルドシリンジ製剤を用いた方が輸液の品質に関わるリスクの発生を約1/4に低下させ、調製者の針刺しの頻度を1/3に低下させることが示されている。また、薬剤師がプレフィルドシリンジ製剤を用いて混合調製を行った場合は、作業時間を約60%に短縮することが可能であると報告されている。プレフィルドシリンジ製剤は、バイアルやアンプルから薬液を採取する必要がないことから、細菌汚染のリスクを軽減し、作業効率の向上や針刺しなどの医療事故防止にも有用であると考えられている。

(6)薬価

バイアルやアンプル製剤に比べプレフィルドシリンジ製剤は薬価が高くなっている。しかし、溶解や薬液採取時に使用するシリンジや針の値段を加味すると最終的に必要な費用の差は小さくなると考えられる。

4.2 安定性への影響 −配合変化や光の影響−

(1)ビタミンB1と亜硫酸塩

亜硫酸塩は、抗酸化作用や着色防止作用を目的として多くの輸液製剤に含まれており製剤の安定化に役立っているが、ビタミンB1の加水分解を用量依存的に促進することが知られている。ビタミンB1が配合されたキット製剤などでは、亜硫酸塩との配合変化を考慮した処方設計になっているため大きな問題にはならないが、基本液やアミノ酸製剤とビタミン製剤を組み合わせて調製する場合には、亜硫酸塩の含量に注意する必要がある。亜硫酸塩を含まない基本輸液としてはハイカリック、アミノ酸製剤としてはアミゼットがある。

(2)ビタミンB12とビタミンC

ビタミンB12には、TPN用ビタミン製剤で使用されているシアノコバラミンとビタミンB群の製剤で使用されているヒドロキシコバラミンがある。ヒドロキシコバラミンはビタミンC(アスコルビン酸)と配合すると還元され、またアスコルビン酸も酸化されるためそれぞれ効果が減弱する。一方、シアノコバラミンはアスコルビン酸との反応が緩徐であり長時間安定であることから、TPN用ビタミン製剤にはシアノコバラミンが使用されている。ただし、液体製剤であるM.V.I.12キットとビタジェクトは、長期的な安定性を考慮してシアノコバラミンとアスコルビン酸は分けて製剤化されている。

(3)微量元素製剤

微量元素製剤とビタミン剤(B2およびC剤、配合剤)をシリンジ内で直接混合した場合、沈殿によりフィルターの目詰まりが生じることがあるので、混合するときは別のシリンジで行う。

(4)投与時の遮光

ビタミンA、B1、B2、B12、C、Kなどは光により分解するため、高カロリー輸液のような長時間かけて投与する輸液にこれらのビタミンを混合した場合には必ず遮光する必要がある。

4.3 薬物間相互作用

ピリドキシン塩酸塩はレボドパの血中での脱炭酸化を促進し、レボドパの脳内作用部位への到達量を低下させてパーキンソン症状を悪化させる可能性があるので注意する必要がある。

5.おわりに

近年、ビタミンを含むTPNキット製剤が使用可能となり、混合調製作業における様々なリスクが軽減され効率化にもつながることから、TPN用ビタミン製剤を使用する機会は減少してきている。しかし、病態よってはTPNキット製剤では対応できないことから、基本液やアミノ酸製剤などと組み合わせてTPN用ビタミン製剤を使用しなければならない場面は必ず存在する。現在市販されているTPN用ビタミン製剤は、含まれているビタミンの種類や量の相違に加え、添加剤の種類、剤形(凍結乾燥製剤あるいは液剤)や包装形態(バイアル・アンプルあるいはプレフィルドシリンジ)などそれぞれに特徴を有することから、それらを理解したうえで使用する必要がある。

文献

  1. American Medical Association Department of Foods and Nutrition: Multi vitamin preparations for parenteral uses, a statement by the Nutrltion Advisory Group. JPEN 3:258-262, 1979
  2. ASPEN Board of Directors: JPEN 26 (suppl): 22SA-24SA, 2002
  3. 厚生労働省健康局総務課生活習慣病対策室. 日本人の食事摂取基準(2010年版). 東京:
    厚生労働省, 2010
  4. Wilmor D et al: JAMA 203: 860, 1968
  5. 古川裕之ら: 医療薬学 29: 270-278, 2003

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