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特別寄稿(2001.10.23)

2. 脳血管障害の症状


脳にはたくさんの機能があり、それぞれの部位で仕事の分担があります。したがって、脳疾患の症状は、原因が脳血管障害であれ、脳腫瘍であれ、脳挫傷であれ、障害を受けた脳の部位によって決まります。

1)意識障害
  人間の意識は、脳全体の機能の総合されたものですが、とくに脳幹部といって、意識の統合を行っている重要な部分があります。意識障害は、脳全体が障害された場合にも、脳幹部だけが障害された場合にも起きうるのです。
意識障害の程度は、目が開いていても意思の疎通が十分にできない「朦朧状態」から、うとうとしている「傾眠状態」、呼んでもつついても反応のない「昏睡状態」までさまざまで、臨床的には9段階あるいは15点満点のスコア表示を行って判断します。いずれにしてもこちらの呼びかけに対して、何らかの方法(言葉や身振り)できちんと反応できない状態は、すべて意識障害として扱う必要があります。なぜなら、意識障害がある場合、口から食物を食べさせるのは誤嚥や窒息を起こしやすく、大変危険な状態といえます。

2)片麻痺
  一般に「半身不随」という言葉をよく耳にしますが、「右あるいは左半身の麻痺」か、「上あるいは下半身麻痺」かはっきりしません。そこで臨床的には、半身不随という言い方をさけて、「片麻痺」、「対麻痺」と呼びます。脳が障害されると、延髄で神経が交差するため、障害側と反対の右あるいは左の片麻痺が起こります。つまり左の脳の障害では「右片麻痺」、右の脳の障害では「左片麻痺」となります。なお、脊髄が障害されると両方の手あるいは足が麻痺しますから、腰椎損傷では「下肢の対麻痺」を起こすことになります。

3)言語障害
  ひとくちに言語障害といっても、ろれつがまわらない「構音障害」と、言葉そのものが理解できない「失語症」に大きく分かれます。
構音障害は、脳の中で口や舌の運動を支配する部分の障害を起こしたとき、文字どおり「音を構成することが障害されて」ろれつが回らなくなる状態です。したがって、ゆっくりしゃべれば言葉を話すことができるようになります。
一方、失語症は言葉を記憶している脳の部分の障害なので、話そうとしても(まるで外国語をしゃべるときのように)言葉が出ない「運動性失語」と、字や文章を見ても読めない「感覚性失語症」という状態になり、言葉を用いた意思の疎通ができなくなります。通常、人にはそれぞれ優位脳半球というのがあって、右利きの人の約80%は左大脳半球が、左利きの人の約50%が右大脳半球が優位であるといわれています。言語の中枢は優位脳半球の側頭葉にあるので、ここが障害されると失語症を起こしてしまうのです。
 構音障害の場合はゆっくり話せばどうにかわかりますが、失語症の場合には「あ~」とか「う~」とかいうだけなので、痴呆の人と間違われることがあります。しかし、身振りを使ったりこちらの言うことに頷いたりしてもらって、対話することは可能なので、注意深く観察することが大切です。

4)視野障害
  眼球はカメラのような仕組みになっており、レンズに相当する水晶体から光が入って逆転し、逆さまになった像が網膜に写ります。つまり右眼も左眼もそれぞれカメラのように世の中を逆さまに見ているのです。皆さんが片目をつむっても、鼻で陰になるところまでは、世の中の右も左も見えていますね。眼球の後ろにある視神経は左右が途中で半分交差し、交差した後の神経の経路は、右は左半分の像を、左は右半分の像を脳の後頭葉へ送ります。したがって、右の脳は世の中の左側だけを、左の脳は世の中の右側だけを見ているわけです。脳の後頭葉の障害では、右眼で見ても左眼で見ても世の中の半分が見えない状態になります。これを右(左)同名半盲と呼びます。

5)その他
  小脳は主に体のバランスをとる平衡機能をつかさどっているので、小脳が障害されると、ふらふらしたりめまいがしたり、気持ちが悪くなって嘔吐したりします。
 また、優位側の前頭葉は人が動物と異なる点、つまり理性・創造力・意志・人格といった高次の脳機能をつかさどるといわれ、ここが障害されると、人格の崩壊や意欲の欠如といった症状がみられます。
 その他、脳の機能が全体的に障害されると、記憶力・記銘力・見当識が欠落し、いわゆる痴呆の状態となります。日本人に多い痴呆は、脳血管障害(動脈硬化)によって脳の血流が足らなくなって脳機能が低下する「脳血管性痴呆」といわれるものです。最近、問題となっているアルツハイマー病は、原因不明で脳細胞自体が死んでいくもので、これまで欧米人に多いといわれていましたが、近年日本人にも増えており、生活習慣の変化などが誘因となっている可能性があります。


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