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●PEGメイトの在宅療養の現状

1.済生会三田訪問看護ステーション利用のPEGメイトとその介護者の状況

済生会三田訪問看護ステーションは、平成9年2月に開設し、平成12年4月より開始された介護保険下で居宅介護支援事業と介護サービス事業所としての訪問看護事業を行っている。

  当ステーションを開設した平成9年2月から2年間のステーション利用者185名中経腸栄養者30名で、PEGメイト19名、経鼻胃管8名、空腸瘻3名であった。

ステーション開設後5年目に入った今、経鼻胃管による栄養注入者は減少し、PEGメイトが増えつつある。その結果、平成13年4月の訪問看護利用者数は83名で、経腸栄養者17名中PEGメイトは15名(1名は経鼻胃管)、腸瘻2名(内1名はガストロボタンも保有)となった(図→)
図 在宅経腸栄養患者数

  筆者が病院勤務の看護婦からステーションの看護婦として在宅看護に携わるようになった直後は、病棟内と同様に手足を拘束されて経鼻胃管による栄養注入をしている在宅療養者が多く、その介護者はしばしば管の自己抜去や閉塞などによるトラブルでステーションへの緊急コールが頻繁にあり、その都度緊急訪問をしていた。
平成9年8月のHEQ研究会で鈴木 裕先生にお目にかかる機会を得たことから、PEGについての知識を深めたり、ビデオを紹介していただき、ステーション利用者に経鼻胃管からPEGへの変更をスタッフとともに積極的に行うようになった。
当ステーション利用者は高齢者が多く、80歳以上が60%以上を占めている。また、介護者の年齢も高齢化し、介護協力者がいない者も多い。

  経腸栄養者の介護は、1日3回の栄養注入のみでなく、水分、薬剤などを含めると介護に多くの時間を要する。また、管の管理、トラブルなどに神経を使うことが多い。経鼻胃管からPEGに変更しても、介護者の介護負担は相当なものである。介護者が心身ともに健康な状態で介護に専念できるようにサポートするのも、私ども訪問看護婦の大きな役割である。そこでこのような経腸栄養者の介護者には、介護からの心身の負担軽減のために、短期入所(ショートステイ)や通所介護などのサービスを利用するように勧めている。
介護者の心身の疲労は、介護放棄や虐待などへ発展するので、介護者の介護負担軽減は、在宅療養のPEGメイトの生活の質向上のために重要である。

 短期入所は、1回10日以内であれば毎月利用でき、認定された要介護度によりその有効期限内に決められた日数の範囲を越えた場合は、所定の手続きにより振替利用もできる。利用料は、要介護度により施設ごとに決められている料金の1割と食材費などで1日約2,500円ぐらいとなる。介護保険開始前は、食材費のみの負担で済んでいたことを考えれば、利用者の負担は増えたことになる。
通所介護は、週に何日か施設に通わせることにより、日中入浴、食事などのサービスを受ける。PEGメイトの場合は、通っている施設でPEGからの栄養注入なども行ってもらえる。利用料は、入浴、食事などの加算を含め、1日約1,000円となる。
介護保険開始後残念ながら、ショートステイを引き受ける施設の方でマンパワー不足を理由にPEGメイトの利用を敬遠しているのが目につくことがある。

2.短期入所介護施設の状況
  短期入所サービスをおこなっている老人保健施設や特別養護老人ホームなどは、入所者の高齢化が進み、年々医療依存度が高くなってきている。そのため、従来の施設基準の人員配置では介護が十分行えなくなりつつあるとのことである。この現象は単に施設内の問題に止まらず、在宅療養者やその介護者に影響を与え始めている。その影響というのは、入所者の介護に時間がかかるという理由で、短期入所や通所サービスの人員の制限や条件をつけることが起こるからである。

その中で特に目立つのが、経腸栄養を行っている者の受け入れが敬遠され始めていることである。夜間に看護職員がいない、あるいは少いとの理由から、PEGメイトのショートステイを引き受けてくれる所が少なくなってきた。
介護保険開始後は、ケアマネージャーがケアプランをたてることになっているが、ショートステイ先を探すことが現状では次第に困難になりつつある。

●在宅療養のPEGメイトとその介護者の今後の課題
  PEGメイトの在宅療養が円滑に行われるためには、当事者とその介護者の問題が解決されなければならない。
在宅療養者の約40%が脳梗塞などを含む脳血管障害という結果から、嚥下障害などにより経口摂取が困難となり、PEGなどによる経腸栄養に変更される人が増加している。また、施設内に収容されている高齢者の平均寿命も延長し、PEGなどの保有者が増加している。これらの現象から在宅や施設内での経腸栄養を行う人口の増加が予測できる。いいかえれば、施設入所者のPEGを含む経管栄養対象者が増加するということである。

  現状では、基準内の人員での介護に限界があるとの理由で、ショートステイなどが利用しにくい。しかし、経腸栄養者は今後増加することが確実なので、もっと積極的に受け入れる工夫をすることが必要なのではないかと考えている。
その工夫というのは、夜間の人員不足を当直または夜勤専門看護婦などによるパート看護婦で補い、積極的に受け入れる姿勢を示すことと同時に、利用者の背景が変化してきていることから、施設における人員の基準や介護報酬の見直し、在宅で経腸栄養をおこなっている対象に加算されている特別管理加算(250単位/月)を施設でもつけられるようにするなどの積極的な取り組みを期待したい。

  短期入所サービスに限らず通所介護サービスなどを行う施設も、介護保険下では利用者やそのケアプランをたてるケアマネージャーに選ばれなければ、顧客(利用者)を増やすことはできない。施設ごとの特徴あるサービス内容、現在の在宅療養者のニーズにマッチしたサービスを提供をしている施設こそが、今後利用者に選ばれることとなる。
また、在宅でPEGメイトの介護者は、介護上の不安や心細さなどを抱えて日々の介護にあたっていると思われるため、介護者の集まりなども定期的に持ち、医師や訪問看護婦などと気軽に相談や雑談ができるような場を検討したいと考えている。

●おわりに
  介護保険開始後1年経過し、利用者やサービス事業者の現状とその問題点についてまとめた。
また、在宅療養のPEGメイトが介護保険下で質の高い生活を送るためには、介護者の介護負担軽減をはからなければならないことから、介護保険で利用できる短期入所や通所介護サービス施設の現状とその問題についても言及した。
在宅療養者とその介護者の高齢化が進む現在、「高齢化社会の介護を家族のみに任せないで社会で支える」という介護保険成立の目的を達成するためには、介護保険利用者である国民一人ひとりの発想の転換が必要である。
訪問看護ステーションの看護婦として、PEGメイトとその介護者のQOL向上にむけてお役に立ちたいと願いつつ、日々の訪問看護に取り組んでいきたい。

「PEGへのご案内」(2001年6月30日発行)より


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