●大家ポンスキーPonskyのPEG関連の最初の論文発表は小児外科雑誌だった 今回PEG関連の論文を見直していて、今まで見落としていた驚くべき事実を発見。PEGの挿入手技に名前を残すクリーブランドのPonskyは彼らの最初の経験報告を1980年の「Journal of Pediatric Surgery」に発表した2)。 この雑誌はいわずと知れたわれわれ小児外科医が最も大切にする国際誌である。Ponskyのグループはこの発表を皮切りに内視鏡関連雑誌3)や外科系雑誌としてインパクトの高いArchives of Surgery4)、Annals of Surgery5)、American Journal of Surgery6)に次々と報告を重ね、PEGは世界的な胃瘻造設法としての地位を確立していく。その皮切りとなった最初の報告が小児外科雑誌であったというのはわれわれ小児外科医としても記憶しておかねばならない嬉しいPEGの歴史のひとコマである。 ●小児外科領域におけるPEGの対象疾患 前述したCP患児のGERDは最大数の対象群である。また小顎症で舌が巧く口腔内に把持できず気道を塞ぐ病態も意外に多い。小児では呼吸の最も有効な経路は口腔ではなく鼻腔である。栄養補給のために鼻から入れたNGチューブは呼吸を妨げ窒息を招く。その点ではPEGは安全だ。摂食不良患児、例えば神経性食思不振症の女の子は日に日に増えている。彼女らのみんながみんなスーパーモデルを目指しているからではない。ストレス社会に生きる心の病である。彼女らに従来は危険を侵してTPNをやっていた。しかしPEGは栄養補給の生理的経路であり、開腹術より腹部の傷も小さい。精神科のサポートのもとで行えば最も安全な栄養経路である。 また呼吸不全、たとえば未熟児を生き抜いた卒業生には気管肺異形性による呼吸不全患児がいる。彼らは繰り返す呼吸器感染でエネルギーを消費する。その上、喚起効率の悪い肺は彼らに呼吸数の増加を強いる。そこへ呼吸器感染が重なると、多い呼吸数に努力呼吸が加わる。それだけで一日の消費エネルギーの20~30%を消費することがある。エネルギー出納の負の日が重なり、その結果栄養障害は重篤となる。食欲も経る。このような呼吸不全の病態下で発生する栄養障害への栄養補給にも、PEGが効果を発揮する。特に夜間就眠中の経腸ポンプを使用したENが極めて良い。この呼吸不全の栄養管理は日本では患者数が少ないが、欧米の白人に多い線維性膵嚢胞症cystic fibrosis(CF)にも全く同様の病態生理と栄養管理が通じる7), 8)。 欧米で多く行われている死体肝移植では、ドナーが突然発生し移植の日程を予め決めておくことができない。 一方、日本のお家芸である生体部分肝移植では、肝臓の提供者(ドナー)が多く近親者であり、移植まであと何日と予定が立てられる。すなわち栄養管理の予定もそれに合わせて立てられ、少し無理な強制栄養も体液バランスが乱れない範囲でかなり思い切って行える。肝移植を受ける側(レシピエント)は肝不全で食欲もない。腹水もたまり腹部膨満も強い。このようなレシピエントでは移植手術の際の癒着剥離の時間を節約するためにも、なるべく胃瘻、腸瘻の造設も開腹に頼りたくない。PEGが最適ではないか。未だ当科では実際にはPEGは移植医療の臨床現場に登場はしていない。しかし今後の展開で移植医療に栄養が深く入り込む必然性が高い。あと1、2年以内に、もう一度この問題を考え直すべきと思う。 また欧米における前述のCFでは肺移植が行われる。移植前の栄養障害は重篤で、低栄養が移植の成績にも直結する。この場合もPEGは威力を発揮しそうだ。移植医療におけるPEGの重要性を提言したい。 さらに小児期の心疾患、悪性腫瘍はいずれも食欲が低下し消費エネルギーが亢進、エネルギー出納の負がかさみ栄養障害が進行する。PEGの良い適応と考えられる。 小児外科領域でPEGが求められる疾患は、栄養障害の認識とPEG 手技の普及によってますます増える。本ネットワークの精力的な活動がひとりでも多くの栄養障害に苦しむこどもを助け、明るい未来を語る礎になることを心より信じている。 参考文献
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