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PEGと小児外科

筑波大学臨床医学系小児外科 講師
雨海 照祥

写真提供:医歯薬出版「臨床栄養」vol.98 No.3 2001.3
雨海 照祥

●全く副作用のない母の静脈栄養からの旅立ち  -胎児栄養から新生児栄養へ-

私たち小児外科医が取り扱う年齢層は、新生児から中学校を卒業する15歳までを原則としている。最近は少しずつ対象年齢が前倒しになり、ときに胎児手術も私たち小児外科医の視野に入りつつある。胎児の成長を考えると、彼らは母親から臍帯(へその緒)を通して完璧な静脈栄養を受ける。経胎盤的な母親からの静脈栄養で肝機能障害をきたしたという話は聞かない。胎児期の静脈栄養は「完全」静脈栄養法の私たちへの良いテキストである。 羊水を嚥下し腸粘膜は局所的な成長を促進する因子の支配を受け、腸にも同時に胎児期に発育を開始するプログラムのスイッチが押され出世後の自立栄養に備える。胎児は、いよいよ羊水の中に浮かんだ絶好の環境からオギャ~と泣いて第一呼吸を済ませ外界にでてくる。へその緒は切られる。このとき、まさに呼吸も栄養も一本立ちを強いられる。胎児栄養から新生児栄養への劇的な転換である。

お乳はその生産場所こそ母親の乳房だが、それを呑んで嚥下し自分の体にするか否かは赤ちゃんの自分の仕事である。この「吸う」(吸てつ)と「のむ」(嚥下)の動作を巧くできない赤ちゃんは、専門的なケアがない限り生きるチャンスを奪われる。栄養は人間の命の根元で、栄養補給は生殺与奪の権利をもつ。栄養を自分で摂れるか。この極めて単純な命題は人間存在のぎりぎりの本質的な問題を秘める。小児期の心身の発育や発達に必要な栄養素が補給されなければ、脳機能障害は長期間にわたる後障害の中で、最も重篤な原因のひとつである。成長・発達の著しい小児期に自分自身による栄養摂取ができない場合、今回新たに設立されたこのネットワークの最大の関心事であるPEGをはじめとする何らかの栄養補給ケアが必要となる。

●小児期の栄養補給経路のいろいろ

経口摂取が恙なく行われるには、いくつものステップが完全に、順序よく滑らかに繋がって流れる必要がある。摂食動作の構成要素には、「食欲」、「食物を見る」、「食物を口に入れる」、「食べ物の香りをかぐ」、「味わう」、「かむ」、「舌で(食べ物を)こねる」、「口腔内を陰圧にする」、「飲み込む」、「(気管への誤嚥を防ぐため)口頭蓋をふさぐ」。ざっとみても10個の因子があがった。それぞれに脳内の受容体や大脳から直接ニューロンが出る脳神経、あるいは口腔、鼻腔、咽頭・喉頭・食道、口頭蓋や気管の正常な形態の形成を前提とする。この正常な機能を裏から見る。各因子がひとつでも障害されると栄養素を生体内に取り込む摂食行動は完成せず、栄養補給ケアを必要とする。栄養補給方法は、よく知られるように経腸enteral nutrition(EN)と経静脈parenteral nutrition(PN)に大別できる1)。PNによる腸粘膜の萎縮、腸内細菌の門脈血中への移行bacterial translocation(BT)などの予防を目的に、腸は使える限りは使う。「EN優先」の大原則がここにある。

ではENにはどのような経路があるか。経口摂取以外では主にチューブ栄養となろう。栄養補給のチューブの位置が胃か、空腸かに大別する。胃では、胃管(通常のNGチューブ)と胃瘻がある。空腸の場合、経鼻的経路、経胃瘻的経路による空腸チューブの挿入と手術的な空腸瘻造設がある。さらに特殊なものとして頚部に食道瘻を置くこともあるが一般的ではない。今回話題となるPEGはこのうち胃瘻のカテゴリーに含まれ、その造設が内視鏡的に行われるのはご承知の通り。また1990年代初頭、腹腔鏡が外科領域に普及し始めた頃の一時期、腹腔鏡的胃瘻造設術が行われたこともあるがPEGが圧倒的に効率的である。

●小児のPEGの意義

しかしここに小児のPEGの将来を考えるうえで忘れてならない外科の進歩があった。20世紀終盤の大きなエポックメーキングな展開が外科学にみられた。日本や欧米で大きく成長を続けている手術手技である。先に少し触れた腹腔鏡下の様々な手術である。このなかでとくにPEGに関係すると思われるものに腹腔鏡下の噴門形成術(Laparoscopic Nissenユs findoplication:ラポロニッセン)がある。これは食道裂孔ヘルニアや胃食道逆流症(GERD)などに対する腹腔鏡下手術である。

胃の一部を下部食道に巻き腹部食道をつくる。胃底部を横隔膜に縫着する。緩い食道裂孔を縫縮する。これらの手術操作を腹腔鏡下に行う。そのことで従来の大きく腹腔を開けた手技に比べ、腸管の癒着が少ない。腸管への術者の手などの接触による侵襲がないからであろう。GERDは乳児期に好発する。また脳性麻痺(CP)のこども達にも極めて多い。CPの患者さんは脊椎を左右から支える筋肉群の左右のバランスがくずれ側わん症をきたし易い。側わんによって食道裂孔を形成する横隔膜の脚(筋線維)が曲がった側の脊椎骨に引っ張られ伸びる。その結果、食道裂孔が緩みGERDを来す。こうした患児には従来は、開腹術を行った。しかし彼らの肋骨弓は狭く開腹でも術野が狭く、そのうえ深い。術者は大汗をかいて逆流防止術を行った。しかしラポロニッセンの導入でこの手術は一変した。側わんがあっても腹腔鏡のおかげで術野を直視下に極めて鮮明な画像でとらえることが可能となった。

CPの患者さんの多くは自分で食物を口に入れることができない。嚥下もできない。従って胃瘻が必要となる。ここでPEGが効果を発揮する。従来なら術野で胃を開けて胃瘻を作成した。しかしラパロニッセンに移行後、低侵襲の鏡視下手術の主眼にPEGがぴったりあてはまった。GERD に対する「ラパロニッセン+PEG」の組み合わせは、今後増加の一途をたどると考えられる。

●小児のPEGの問題点

小児のPEGを適切に管理する上で、その問題点にも精通しておく必要がある。小児では検査の協力が得られにくく上部消化管の内視鏡にも全身麻酔を必要とする。従ってPEGも全麻を必要とする。PEGが成人ほどに小児で一般的に行われないことの最も大きな理由もここにある。また対象が乳児の場合、彼らは手のひらに触ったものは何でも引っ張るしっかり者の習性がある。間違ってPEGのチューブが手のひらに入ると何もわからず思いっきり引っ張る。その結果PEGチューブは抜け、完全にはまだ腹壁についていない胃壁は腹腔内に落ちる。それを知らずに抜けたPEGチューブを孔から胃に入れたつもりでミルクのを注入を再開する。その後の悲劇は考えたくもない。これは超高齢者で少し痴呆を来した方でも事情は同じであろう。また新生児や幼若乳児にPEGを必要な場合、PEG造設後のガストロボタンで彼らの薄い腹壁の厚さに適当な長さのものがない。

さらに胃と食道の接合部の逆流防止機構が未熟な乳児に一旦PEGを作成すると、胃が下方に引っ張られ、腹部食道と胃底部で形成されるHis角が緩み、逆流をおこしやすい。この年齢でPEGの適応に慎重であるべき理由がここにある。