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 PDNレクチャーで詳細に解説されている「経腸栄養」。腸を経るということですから、口から食べるのも、鼻からのチューブで栄養を摂ることも、胃瘻、腸瘻、食道瘻などから栄養を摂ることも、経腸栄養です。

 ここでは、臨床現場で患者さんの全身状態を含めて栄養管理を行う管理栄養士の先生お二人が、PDN通信にご寄稿下さった記事をご紹介します。

 ・経腸栄養管理のポイント(宮澤靖先生)(この記事です)

 ・訪問栄養士からみた在宅PEG患者さんのチェックポイント(松月弘恵先生)

1.経腸栄養管理のポイント


医療法人近森会 栄養科科長 宮澤 靖(管理栄養士)

(所属・役職等は発行当時のものです)

宮澤靖

PDN通信 創刊号 (2002年10月発行) より

(所属・役職等は発行当時のものです)

適正な栄養管理法の選択

胃瘻造設症例に対しては、栄養評価を行い栄養学的な解析に基づいた適切な栄養管理法を選択し、担当医に提言することが要求される。

ただ「食べられないからPEGにすればいい、静脈栄養にすればいい」のではなく、正しい栄養評価に基づいて望ましい時期に造設することが肝要である。

瘻管法(胃瘻、腸瘻等)による栄養投与は、第一に患者の消化管が安全に使用できるか.経腸栄養法に該当する症例なのかを検討し、第二段階として経腸栄養法に依存する期間はどのくらいなのか評価する。仮に6週間以上経腸栄養法に依存しなくてはならない症例については、瘻管法を選択する。

投与時の留意点

表 Harris-Benedict式(BEE)

投与エネルギーの決め方(1日必要エネルギー量 kcal/day)
BEE × Active Foctor × Stress Factor

BEE(Basal Energy Expenditure)
Harris-Benedictの式 基礎エネルギー消費量(kcal/day)
 男性 66.47+13.75(W)+5.0(H)-6.76(A)
 女性 655.1+9.56(W)+1.75(H)-4.68(A)
 W:体重(kg) H:身長(cm) A:年齢

Active Foctor
寝たきり:1.0  歩行可:1.2  労働:1.4~1.8

Stress Factor
術後3日間
軽度:1.2→胆嚢・総胆管切除、乳房切除
中等度:1.4→胃唖全摘、大腸切除
高度:1.6→胃全摘、胆管切除
超高度:1.8→膵頭十二指腸切除、肝切除、食道切除
臓器障害→1.2+1臓器につき0.2ずつUP(4臓器以上は2.0)
熱傷→熱傷範囲10%毎に0.2ずつUP(Maxは2.0)
体温→1.0℃上昇→0.2ずつUP
 (37℃:1.2 38℃:1.4 39℃:1.6 40℃以上:1.8)

東口髙志:鈴鹿中央総合病院 NST Old&New 1998より引用

①経腸栄養剤の取扱い
通常、調整後4時間以内では細菌繁殖は少ないが、6時間以上経過すると細菌増殖の危険があるので、調整後長期に室温に放置しない。
また、低温の栄養剤の投与は、下痢を招くことがあるが、投与前に経腸栄養剤を温める行為により細菌が増殖することがあり、ビタミン類の失活にも繋がるため、加温の必要は無く質問で良いと思われる。

②投与カロリー
一般にBasal Energy Expenditure(BEE)にActive Foctor・Stress Factorを乗じた式を用いて各疾患のエネルギー必要量を算出している(表)。BEEを基準として、新体系測地や栄養指標の推移、合併症などを考慮し、投与カロリー量を各患者ごとに調節する。

③投与量と投与速度
先ず消化器の馴化をみて、経腸栄養剤の投与開始時は注入速度40mL/hr程度として、200~400kcal/dayから始めることとする。
その後、投与測度を増加し、5~7日目には投与量の投与を目指し、速度を150~200mL/hrに到達させることを目標とする。
空腸の対応できる生理的な浸透圧は、およそ270~300 mOsm/Lであるとされるが、経腸栄養剤の注入速度と注入量が過大であれば、下痢の発生は避けられない。
経腸栄養施行時に消化器症状をきたした場合には、注入速度を緩めてみることである。自然流動食、成分栄養黄剤、半消化態栄養剤のうち、どれを用いても消化器系の副作用である悪心、嘔吐、腹部膨満、腹痛、下痢の発生頻度は変わらない。
したがって、その対策としては止瀉剤などの投与よりも、先ず栄養剤の注入速度でコントロールするのが最良の策であり、その後に薬物の投与を考慮すべきである。また、食物繊維を添加した乳果オリゴ糖液を投与してみても良い。
しかし、頻回の下痢が続く際には、一時投与を中止して、腸管の安静を保つ処置が必要となることもある。

栄養管理施行中の留意点

経腸栄養管理を開始したら、経腸栄養剤の投与量の記録、定期的な栄養評価を行い、現在行っている栄養療法の効果を判定する。

①経腸栄養剤の摂取量
実際荷投与された経腸栄養剤の量と処方された量とが、いつも一致しているとは限らないことを、常に念頭におく。経腸栄養剤の残量があれば記録し、経口摂取を併用している場合には、その摂取量も記録すべきである。

②栄養パラメータ

a:体重測定
体重測定は最も容易で簡便な経腸栄養材投与の有効性を測る指標である。腹水や浮腫が高度の場合には、補正することを忘れてはならない。

b:身体計測
体脂肪や骨格筋量の評価には、上腕三頭筋部肥厚、上腕囲、上腕近囲などが有用であるが、短期間の治療の効果判定には鋭敏であるとはいえない。

c:生化学的評価
経腸栄養法開始時には、高血糖が起こっていないかどうかを検査する。また、血中の電解質のチェックは、理想的には週に2回行い、特に低栄養状態が高度である場合には、血中カルシウムとリン濃度を注意深くモニターする。急性の低リン血症が、呼吸不全などの原因になることがあるといわれている。血中の亜鉛やマグネシウム濃度も測定し、窒素バランス、血中総蛋白、アルブミン、トランスフェリンなども栄養療法のマーカーとなり得る。
血中セレンやビタミンE濃度などは、欠乏症の臨床症状が明らかでない場合には、無理に測定する必要は無い。
血中アミノ酸濃度や、rapid turnover proteinであるレチノール結合蛋白やプレアルブミン濃度の測定は、短期間の栄養療法の判定にも有用である。

③栄養素、食物繊維、水分の欠乏

a :ミネラル
ミネラルは難溶性無機塩類と可溶性塩類(イオン)がある。以下にその働きを示す。

Ca・P・Mg;骨、歯の構成成分
Na・Cl・Ca・P(イオン);浸透圧調節、水分平衡、酸アルカリ平衡
Ca・Mg・Na・K;神経、筋肉の機能
Ca・Mg・Mn;酸素の活性化
Ca;血液凝固

一般に経腸栄養剤にはNa含有量が少ないため、長期投与の場合医には低Na血症を起こす症例が多い。定期的にNa、Clの血清濃度を測定し、補正する必要がある。

b:微量元素
微量元素の体内量は少なく、人体にとっての必須微量元素は、Fe・Zn・Cu・Co・I・Se・Mn・Moである。
微量元素は酵素などの機能の中心物質、微量活性物質の重要な構成成分である。現在市販されている経腸栄養剤は1,000~1,2000 kcal/dayを投与する場合、100%充足するように含有されているものが多いが、褥瘡など合併している場合には、定期的に測定し評価する必要がある。

c:食物繊維
経腸栄養法の最大の合併症である下痢や便秘に深く関与し、腸内細菌叢の正常化、有害物質の吸着効果などがあるが、腸管の安静が必要な場合は禁忌となる。
食物繊維は水溶性、不溶性があり、その種類により効果が異なる。一般邸には下痢には不溶性が有効とされている。必要量は10g/1,000kcalである。

d:水分
経腸栄養剤では、下痢、嘔吐などの症状がある症例や硫黄エネルギー(1.5~2.0kcall/mL)製剤では、水分不足にならないよう注意する。基本的にはin-outが等しくなるよう調整する。
1mL、1kcal、200mLの標準的な水分癌油量は、80%の160mLである。また脱水の場合は、Na欠乏か、水分欠乏か、混合型かの判定をする。



正しい栄養管理は合併症を低減し、薬効を促進するものである。にもかかわらず、臨床現場の中では最も経験的に捉えられていた領域といえる。経験ももちろん大切であるが、基礎的な正しい知識に裏打ちされた栄養管理の重要性を、医療従事者すべてが認識すべきであろう。

PDN通信 創刊号 (2002年10月発行) より

(所属・役職等は発行当時のものです)