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Ⅰ 摂食・嚥下障害と胃瘻
1.抑制からの解放!
 そして、再び食べられるために


NTT東日本伊豆病院 内科・リハビリテーション科 稲川利光

(NTT東日本関東病院 リハビリテーション科:2012年12月現在)

稲川利光

PDN通信 創刊号 (2002年10月発行) より

(所属・役職等は発行当時のものです)

リハビリと栄養

当院には100床の回復期のリハビリテーション病棟があり、連日入退院の患者さんで賑わっています。リハビリテーションを必要として当院に入院してくる患者さんの約7割は脳血管障害の患者さんで、他はパーキンソン病や脊髄小脳変性症、リウマチや骨折、脊髄損傷などです。

脳血管障害や変性疾患の患者さんは、比較的高齢で重度の障害を持つ方々が多く、四肢の麻痺に加えて、嚥下障害があり、入院時より経鼻胃管やIVHが入ったままであったり、気管切開がなされ、カニューレが入ったまま、という場合が多くみられます。

嚥下障害を改善し、経鼻胃管やIVHを外し、気切カニューレを抜いてゆくということは、非常に根気のいることではありますが、患者さんが徐々に口から食べられるようになり、これらのチューブが抜けてゆく時の快感は、患者さんはもちろんのこと、私たちにとっても、何とも言えないくらい良いものです。

リハビリテーションを行う上で、咀嚼や嚥下という部分は、非常に重要な意味を持っています。口から食べられるようになれば患者さんは元気になってくるし、元気になればさらに食欲は増し、上手に食べられるようにもなってきます。栄養の補給は非常に大切なところで、良好な栄養を得ることなしには、食べられるだけの力も出てきません。

しかしながら、嚥下障害が重度で、食べるまでには至らない患者さんが多いのも事実です。誤嚥性の肺炎を繰り返したり、十分な栄養が摂れない状況が続く場合では、何らかの方法で、栄養をきちんと摂ってゆくことが必要です。

鼻チューブの現実

経鼻胃管はいわゆる「鼻チューブ」と呼ばれているもので、鼻から咽頭、喉頭、食道を経てチューブが胃に留置されるものです。とりあえずは、どこでも行える栄養摂取の方法ですが、チューブが留置されたままだと、鼻や咽頭の粘膜からの分泌物が増加し、痰や唾液、鼻汁などが増えて、それらがチューブにこびりつき、そこに雑菌が繁殖し、これが肺炎のきっかけとなってしまいます。

誤嚥を防止するつもりで入れた経鼻胃管が、かえって誤嚥やそれによる肺炎の危険性を高めていることさえあるので、要注意です。嚥下の訓練をしようにも、チューブによって咽頭や喉頭の動きが妨げられていて、不快感を伴い、訓練どころではなくなってしまいます。

鼻チューブでは、その不快さのあまりに、患者さんが自分でチューブを抜いてしまうことがよくあります。チューブで気道を塞いだり、注入中の栄養剤を誤嚥する、という事故も起こり得るので、チューブ抜去の常習者は、チューブがつかめないような手袋をはめさせられたり、手をベッド柵に縛られたり、といった抑制を強いられることになってしまいます。そういう抑制を強いることになるような経鼻胃管の留置だけは、絶対に避けたいものです。

OE法もあるけれど…

OE法という方法がありますが、これは、間歇的口腔食道経管栄養法(Intermittennt Oro-Esophageal Tube Feeding 。略してOE法)と言われている方法で、食事の時だけチューブを飲み込んで、先端を食道まで挿入し、栄養剤を注入し、それが終われば抜去するというものです。

チューブの先端が食道に位置するので、経鼻胃管で直接胃に栄養剤を入れるのに比べて、より生理的で、栄養剤の注入速度を速くすることができます。経管栄養としては非常に理想的な方法ではありますが、食事の度ごとにチューブを安全に出し入れしなければならないし、また、チューブを飲み込む時に「ゲーッ」と嘔吐反射が出てしまうことも多く、誰にでもできるものではありません。

胃ろうのメリット

以上のような状況から、経鼻胃管留置が長期にわたることが予想される患者さんで、OE法も難しいといった方には、日常の嚥下状態を評価し、嚥下造影検査(VF検査)などの結果を加味しながら、胃ろうの適応を慎重に検討していくことになります。

胃ろうを使うようになれば、鼻から胃へのチューブの留置は不要となり、患者さんは不快感から解放され、抑制を受ける必要もなくなってきます。患者さんにとっても、私たちにとっても、この抑制からの解放ほどありがたいものはありません。

鼻からチューブがなくなれば、患者さんの異様な顔つきは一変し、すっきりした、いい表情になってくれます。そして、人前にも出て行こうという気分が芽生え、生活全体が活性化してゆきます。食事の味も改善するので、食べようとする意欲も湧き、食欲が出てきます。当然、嚥下の訓練もしやすくなってきます。

このように、経鼻胃管の留置に比べて、胃ろうには実に大きなメリットがあるようです。

嚥下障害が重度で、やむなく胃ろうを造設した場合であっても、その後、栄養状態が改善し、全身状態が整ってくる中で、口腔ケアや嚥下訓練を根気よく継続してゆくことで、経口摂取が可能となってゆく患者さんを多々見受けます。栄養をすべて経口で摂れるようになり、最終的に胃ろうが不要になり、抜去できるようになる患者さんもいますし、栄養の一部を胃ろうで補いながら、あるいは誤嚥しやすい水や内服薬を胃ろうで補い、無理せず食べたいものだけ食べる、という患者さんもいます。

経口摂取だけでは十分な栄養や水分が摂取できない場合には、一時的にでも胃ろうを取り入れて、まずは全身状態を整えながら、経口摂取の可能性を求めてゆく、といった取り組みの中から、経口摂取が可能となる患者さんが出てくるようです。

胃ろうで全身状態を良好に

胃ろうの適応については、一般に、

  • ・ 何らかの障害で「食べよう」とする意欲が得られない場合。
  • ・ 嚥下機能障害で嚥下ができないか、できても誤嚥性肺炎を繰り返す場合。
  • ・ 経鼻胃管の長期的な留置を余儀なくされるような場合。
  • ・ 顔面や口腔内、食道や噴門部などの病変で、経口摂取ができないか、経口摂取がふさわしくない場合。
  • ・ その他、クローン病などの患者さんで、長期の成分栄養剤の摂取が必要な場合。

と言われています。

胃ろうの第一の目的は、栄養管理を行って全身状態を良好に保つことです。

「胃ろうで全身状態を整え、ひいては経口摂取を可能とし、あわよくば、胃ろうが抜去できること」を目標にしながら、「全く食べられない」といった地獄から、何とか救ってあげられるような胃ろうの適応を、今後も考えてゆきたいものです。

PDN通信 創刊号 (2002年10月発行) より

(所属・役職等は発行当時のものです)